平成20年度 広島大学公開講座

数学の基礎と展望
― 数理に触れる・数学で見る ―

主催 広島大学理学部数学教室
共催 広島大学総合科学部数理情報科学教室
後援 広島県教育委員会

東広島市教育委員会

広島市教育委員会

実施要綱 (pdf, 41KB)受講申込書 (pdf, 77KB)ポスター (pdf, 291KB)

1. 趣旨

本公開講座は,大学公開事業の一つとして平成 4 年度に始まり, 今回が 17 回目にあたります。 数学は,創造性と自由な発想の下,理論としての美しさをもつ学問として, 常に諸科学分野とも相互作用しながら発展し続けています。 数学の美しさを感じていただく機会を提供するために, 現在の数学研究の一端をわかりやすく紹介し, その面白さを理解していただこうとするものです。 今回も,数学に関連する新しい題材を取り上げ,4 名の講師陣による講義を企画しました。 さらに,講義の他に,数学教室案内,パネル展示「現代数学の世界」, 特別懇談会「高校教育と大学教育の接点」(高校教員の方と大学教員の懇談) を開催します。

2. 実施期間

平成 20 年 8 月 4 日 (月), 8 月 5 日 (火)

3. 実施場所

広島大学理学部 E 棟 1 階 E102 講義室 (東広島市鏡山 1-3-1) (交通案内と宿泊の案内)

4. 受講対象者

高校生 (学年不問) 及び数学に関心のある方

5. 募集人員 

約 100 名

6. 受講料

無料

7. 講師・講義内容の紹介

「再生理論入門 ― 発散級数の壁を越えて ―」

吉野 正史 氏      
この講演であつかう級数の発散現象は、 厳密に定義するのは大変なのですが、これは、 たとえて言えば、小さな値(摂動)が積み重なって、 先に行くほど全く想定できないような値(あるいは挙動)になるような現象です。 このたとえでは、``級数" は、積み重ね、つまり足し合わせることであり、 ``発散" とは想定外の挙動に対応します。 私たちの日常では、過去の積み重ねの上の、 それほど大きく外れないところに、 たとえば来月あるいは来年のなにがしかの値を予想します。 この講演で考える ``発散現象" とは、 このような考え方ができない現象です。 数学や科学の世界などで日常を離れたところには、このような現象がたくさんあります。
発散がおこると、確定的な事はいえなくなり、足し合わせること、 すなわち積み重ねには意味がないように思われます。 そうすると、その級数(足し方)を捨てなければならないのでしょうか。 再生理論(resurgent theory)とは、 そのような捨て去られる ``級数" を再生させる理論です。 resurgentには、復活する、よみがえるという意味があります。 この理論は、 足し合わせる前のおのおのが持っていた情報のある部分をうまく取り出す方法とも言えます。 これを数学的な式をあまり使わずに、なんとか説明を試みてみようというのが、 この講演の目的です。

[講師自己紹介]

吉野 正史 (よしの まさふみ)
広島大学 大学院理学研究科 数学専攻 教授
私は、この20年ほど複素領域の微分方程式を中心に研究してきました。 最近、興味を持っていることは、微分方程式、 力学系などであらわれる ``級数" の ``発散現象" です。 最近は、この現象をとらえる新しい考え方に興味を持って研究をすすめています。 これが講演の標題の一部にもなっています。 数学の関係者以外の方には、全く初めて聞く話でしょうが、 面白さの一端でも伝わればと思っています。

「遺伝子のふるまいを数理で調べる」

柴田 達夫 氏      
近年、生命現象に対する理論的研究の重要性が高まってきています。 例えば、私たちが体の中に持っている24時間の周期はどのような仕組みで生まれるか。 私たちの体が作られるためにはどのような遺伝子がどのようなタイミングでどの場所で働く必要があるのか。 細胞のような小さいシステムが環境の変化を感じてその振る舞いを変えるためにどのような仕組みが働いているか。 これらの問いに対して生物学はそれぞれの現象に関わる分子や遺伝子とそれらの働きを詳しく調べて来ました。 そしてこれらの情報から現象の全体像を解明するためには、 複数の分子や遺伝子が互いに協力して働く様子を明らかにする必要があります。 そのために数理科学の方法が力を発揮するのです。 実験の結果にもとづいて分子や遺伝子の振る舞いを数理科学の方法で表現し、 それらが協調的に働く様子を解析したりコンピューターを用いてシミュレーションしたりすることで再現し、 さらにあらたな振る舞いを予言することで実験にフィードバックする。 このような研究プロセスが生命現象の全体像を解明するために重要な役割を果たすことが認識されつつあるのです。 この講演では、 簡単な例を用いて細胞の中で起こる遺伝子や分子の働きを数式を用いて表現し実験結果を再現することを示しながら、 数理科学の方法を用いて生命現象を調べる方法を紹介します。

[講師自己紹介]

柴田達夫 (しばた たつお)
広島大学 大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 准教授
科学技術振興機構さきがけ研究員
細胞スケールの現象に興味を持って研究をしています。 数理科学の立場から生命科学に貢献したいと思っています。
研究分野 : 理論生物学、非線形非平衡物理学。

「紐が織りなす数理」

金 英子 氏      
みなさんは, 綾取りという遊びを知っていますか? これは, 輪にしたひもを指や手首にかけてさまざまな形をつくる遊びです. 私の講演の主人公は, 数学では「組ひも」とよばれるひもです. 組ひもの変形は, 綾取りをするような感覚と同じで実際に目で見ることができます. 連続的な変形で互いに移り合える組ひもは, 「同じ」組ひもと考えます. これは数学の「トポロジー」という分野の考え方です. 組ひもは, 実は数学の色々な分野に登場するのですが, そのうちの一つとして, 最近, 注目されているのは暗号理論です. 暗号は, 秘密に通信するための手段として用いられおり, 現代社会ではなくてはならない存在です. 組ひもと暗号ーこれらはどのように結びついているのでしょうか? 少し専門的になりますが, 数学では「群」という概念があり, 組ひも全体の集合は, 群構造を持っています. 与えられた群の 2 つの元が同じ(共役)かどうかを決定する問題は 「群の共役問題」 とよばれています. 組ひも群については, Garside という人が共役問題を解いているのですが, 組ひも群の共役問題が計算量的に簡単なクラスに属すかどうかは未だわかっておらず, 現在のところでは, 計算量的に難しい問題として位置づけられています. この共役問題の難しさを, 秘密通信における第三者の解読の難しさの保証に利用しようというのが組ひも暗号のアイデアなのです.

[講師自己紹介]

金 英子 (きん えいこ)
東京工業大学 大学院情報理工学研究科 数理・計算科学専攻 講師
組ひもを用いて, トポロジーや力学系といった分野を研究しています. 私は暗号理論の専門家ではないのですが, 数年前に組ひも暗号について知り, 組ひものことならなんでも知りたい思いで, 勉強を始めました. 組ひも群の新しい側面がいろいろ発見できて楽しいです.

「宇宙と幾何学」

大鹿 健一 氏      
古代の人々は地球(地面)は平らで, やがて涯がありその先は滝か何かがあると思っていました. 宇宙に涯があると考えたり, 宇宙はまっすぐでただ広がっていると考えるのは, 宇宙観において, 地球に関しての古代人のレベルにあることになってしまうかもしれません. アインシュタインの一般相対性理論は宇宙が曲がったもの, 閉じたものである可能性をひらきました. 数学の言葉でいうと, これは宇宙が3次元多様体と呼ばれるものであることを意味しています. 昨今の幾何学の発展により,3次元多様体は,「トポロジー」という見方をすると, どの点も同じ曲がり方をしているものだけを考えればよいことが明らかになりました. 宇宙がどこも同じ曲がり方をしているとすると, 宇宙の形の可能性は限定されます. 実際の天文学的観測により, 宇宙の本当の形を解明することができる日も近くなってきたと思われます.
この講演では, 宇宙の形を考える数学的な枠組みをできるだけ直感的にわかるように伝えたいと思います.

[講師自己紹介]

大鹿 健一 (おおしか けんいち)
大阪大学 大学院理学研究科 数学専攻 教授
ここ20年近くクライン群とよばれるものの研究を続けています. これは宇宙の話で出てくる,双曲的な世界に対応する大変おもしろい研究対象です.

8. 企画

1 日目講義終了後,次の二つの企画を並行して行います。 また,E 棟 1 階 E104 講義室 (E102 講義室の斜め向かい) にて を期間中行います。これは,現代数学の話題をパネルで紹介するものです。 1 日目講義終了後に,大学院生によるパネルの説明会も行います。

9. スケジュール

8 月 4 日 (月)   9:40 ― 10:00   開会式
10:00 ― 11:40   講義
11:40 ― 12:00 講師との懇談タイム
昼休み
13:00 ― 14:40 講義
14:40 ― 15:00 講師との懇談タイム
15:10 ― 16:00 大学院生による展示パネルの解説
16:00 ― 数学教室案内,特別懇談会 (並行して開催)

8 月 5 日 (火)   10:00 ― 11:40   講義
11:40 ― 12:00 講師との懇談タイム
昼休み
13:00 ― 14:40 講義
14:40 ― 15:00 講師との懇談タイム
15:10 ― 15:40 修了式 (修了証授与)

10. 申込方法

受講申込書 (pdf)」 (コピーをとって使用しても構いません) に必要事項を記入の上, 「数学教室公開講座申し込み」と朱書し, 宛に郵送してください。受付期間は です。お申し込みいただいた方には, 受講票と本講座のテキストを送付いたします。 なお,本公開講座に申し込む際には, 返信用封筒を同封する必要はありません

11. 問い合わせ先

〒739-8526 東広島市鏡山 1-3-1
広島大学理学部数学教室 公開講座係

電話: 082-424-7350 (数学教室事務室)
FAX : 082-424-0710 (数学教室事務室)
電子メール:koukai@math.sci.hiroshima-u.ac.jp

12. リンク

広島大学理学部 数学教室交通と宿泊の案内

広島大学エクステンションセンター

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