主催 | 広島大学理学部数学教室 |
共催 | 東広島市教育委員会 |
広島大学総合科学部数学教室 | |
後援 | 広島県教育委員会 |
広島市教育委員会 |
この公開講座は、大学公開事業の一つとして平成 4 年度に始められたもので、 今回が第12回目になります。数学は諸科学の基礎として重要な役割を果たしていますが、 同時に創造性と自由な発想に富み、理論的な美しさを持っています。数学に親しみ、 その素晴らしさを広く共有していただくために、現在研究されている数学の基礎的な考え方の一端を分かりやすく紹介し、 数学が常に生き生きと発展している様子を理解していただこうとするものです。 今回も、数学の様々な研究分野から新しい題材を取り上げて、4名の講師陣によって開催されます。 また、講義の他に、「数学教室案内」、パネル展示「現代数学への入り口」と特別懇談会 「高校教育と大学教育の接点」(高校教員の方と大学教員の懇談会)を企画しています。
平成15年8月4日(月)、8月5日(火)
広島大学理学部E棟1階 E102 講義室 (東広島市鏡山 1-3-1)
高校生(学年不問)及び数学に関心のある方
約100名
無料
「動物の行動を数学で考える」
広島大学大学院理学研究科・助教授 瀬野 裕美動物の行動は、とても多様ですが、 それぞれの動物の行動が驚くほど論理的に定められたものであると理解できることが動物生態学の研究で明らかになってきました。 例えば、セミは、なぜ、成体になって1週間程度で死んでしまうのに、 他の昆虫では何年も生き続けるものもいるのでしょう。 そこには、セミの成体が1週間で死ぬことに(やむを得ない、ではなく、「主体的な」)理由があるからです。 その理由を生態学では、『適応性』と呼んでいます。
さて、個々の動物のもつ特定の行動についての適応性を理解する方法として、 数学によるモデルの解析を用いる理論的方法が発展してきました。 とりわけ、ゲーム理論や最適制御理論は、社会学、経済学、工学で用いられてきた応用数学的手法でしたが、 上記のような動物の行動の適応性を理解する理論への応用が現在では当たり前になりました。 本講座では、最適制御理論の中の『動的計画法』と呼ばれる手法を用いた、 繰り返される動物行動の適応性に関するモデルの解説を通して、 動物の行動の理解にも数学が応用できることを紹介します。 実際に用いられる数学の中身は、高校レベルの確率と漸化式の基礎的知識です。 具体的に、動物における子の親からの独立タイミングの問題や性転換する魚の性転換タイミングの話題を取り上げて解説を進めたいと思います。
「だまし絵と立体イリュ―ジョン」
東京大学大学院情報理工学系研究科・教授 杉原 厚吉だまし絵とは、紙面には描けるけれど立体としては作れそうにない構造を表した絵で、 オランダの版画家エッシャーがその作品の素材として用いたことでも有名です。 だまし絵で表された構造は、ずるいトリックを使わない限り立体としては作れないと一般には思われていますが、 私たちは、絵を理解するコンピュータを開発する研究の中で、 だまし絵の中には立体として作れるものもあることを発見しました。 この講義では、そのような立体を紹介するとともに、 その背景にある投影の幾何学と人の視覚認識の関係を一緒に考えていきたいと思います。 これがわかると、マラソン選手を正面から捉えたテレビの実況中継で、 選手の間隔が異常に詰まって見える理由などもわかってきます。また、部屋を実際より広く見せる写真術、 新しいだまし絵を創作する方法、などへの応用もできるようになります。さらに、 新しいディスプレイやマジックの素材としての利用などへも夢を膨らませることができるかもしれません。
「球面体と3次元フラクタル図形」
明治大学理工学部数学科・講師 阿原 一志
フラクタルという言葉を聞いたことがありますか? 「自己相似性」という性質をもつ図形のことです。私たちの身の回りのもので言えば、 ブロッコリにその性質が見られます。つまり、ブロッコリの小さな枝を一つちぎってみると、 その枝はブロッコリ全体の形を相似的に小さくしたもののように見えます。これがフラクタルです。 平面の上に描かれたフラクタルとしてはマンデルブロ集合やシェルピンスキーガスケットが有名です。 最近、私は荒木義行氏との共同研究で、「球面体(sphairahedron)」という新しい概念を創出することにより、 まったく新しい3次元的なフラクタル図形の例を構成することに成功しました。 この講演ではその図形の作り方や実例を紹介します。 この図形は擬フックス群の極限集合というものになっていて、双曲幾何学などへの応用が期待されます。
「グラフを使ってゲームやパズルを解いてみよう」
広島大学大学院理学研究科・教授 榎本 彦衛ここで考えるグラフというのは、円グラフや棒グラフといったグラフではなく、 いくつかの点を線分で結んでできる図形のことです。 グラフは色々な構造を記述する道具として大変有用であり、 一般的な性質を調べておくことにより色々な場面で応用することができます。 いくつかのゲームやパズルについて、グラフを使うとすっきり解けるということを示してみます。 たとえば、2人のプレーヤが1から100までの数を書いた100枚のカードから交互に1枚のカードを取り除くというゲームを考えてみます。 ただし、初手は偶数を選ばなくてはならず、 それ以降は直前に相手が取ったカードの約数か倍数のカードを取らなくてはいけないとします。 カードを取ることができなくなった方が負けだとすると、先手と後手のどちらが勝つでしょうか。
瀬野 裕美 氏(広島大学大学院理学研究科・助教授)1960年岩国市生まれです。大学の時に応用数学、数理生物学に出会い、大学院生時代からこれまで、 生物現象に関する問題の数理モデルによる学際的研究を続けています。
杉原 厚吉 氏 (東京大学大学院情報理工学系研究科・教授)私の専門は「数理工学」です。これは、数学を用いて現実の問題を解く学問です。 その中でも特に私は、幾何学という道具を利用するのが好きで、 コンピュータグラフィックスや地理情報処理の問題に挑戦しています。
阿原 一志 氏 (明治大学理工学部数学科・講師)専門は位相幾何学(トポロジー)です。最近はトポロジー研究支援ソフトウエアの開発を行っています。 数学のゲームソフトが作れないか考え中です。
榎本 彦衛 氏 (広島大学大学院理学研究科・教授)私の専門は「グラフ理論」です。役に立つことを目的に研究しているわけではありませんが、 グラフを使うと色々な問題をきれいに記述できたり、あざやかに解いたりできることがしばしばあります。 未解決問題もたくさんあり、魅力的な研究分野です。
1日目講義終了後、次の二つの企画を並行して行います。●「数学教室案内」 :数学教室の図書室,コンピュータ室等の見学会
● 特別懇談会 「高校教育と大学教育の接点」
教員の方を対象とした高校教育と大学教育の情報交換のための特別懇談会
(特別懇談会に参加ご希望の方は、申込書の参加希望調査欄に記入してください。)
また、E棟1階 E104 講義室(E102 講義室の斜め向かい)にて● パネル展示「現代数学への入り口」
を期間中行います。これは、現代数学の話題をパネルで紹介するものです。
1日目講義終了後に、大学院生による説明会も行います。
8月4日(月) 9:40 ― 10:00 開講式10:00 ― 11:40 講義 (瀬野 氏)
昼休み
12:30 ― 13:00 講師との談話タイム (tea break)
13:00 ― 14:40 講義 (杉原 氏)
14:40 ― 15:10 講師との談話タイム (tea break)
15:20 ― 特別懇談会、数学教室案内 (並行して開催)
8月5日(火) 10:00 ― 11:40 講義 (阿原 氏)
昼休み
12:30 ― 13:00 講師との談話タイム (tea break)
13:00 ― 14:40 講義 (榎本 氏)
14:40 ― 15:10 講師との談話タイム (tea break)
15:20 ― 15:50 修了式
別紙受講申込書(コピーをとって使用しても可)に必要事項を記入の上、
封筒表面に「数学教室公開講座申し込み」と朱書し、
〒739-8526 東広島市鏡山1−3−1広島大学理学部数学教室公開講座係
宛に郵送してください。受付期間は
平成15年 7月1日(火) から 7月14日(月) まで
です。数学教室の事務室(理学部B棟7階 B709 室)まで直接持参していただく場合には、
午前9時から午後5時までの間にお願いします。
お申し込みいただいた方には、受講票と本講座のテキストを送付いたします。
広島大学理学部数学教室公開講座係
電話: 0824-24-7350(数学教室事務室)
電子メール: koukai@math.sci.hiroshima-u.ac.jp