●●● 談話会 ●●●

2007年度

第1回

日時: 4月24日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:作間 誠 氏(広島大学大学院理学研究科)
題目:双曲多様体内の単純閉曲線
Tea Time: 14:00 -
要旨:
G. McShaneは、カスプ付き有限体積完備双曲曲面上の 単純閉測地線の長さに関する不思議な等式を発見した。
本講演では、その等式の様々な類似と応用、そして 結び目理論の問題との関係を述べる。

第2回

日時:5月15日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:大鹿 健一 氏(大阪大学大学院理学研究科)
題目:Klein群論の現状と今後
Tea Time: 14:00 -
要旨:
Thurstonが1980年代に提示したKlein群における未解決問題の多くが ここ2-3年のうちに相次いで解決された.
これらについて解説するとともに,今後考えるべき問題について述べる

第3回

日時:5月22日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:粟津 暁紀 氏(広島大学大学院理学研究科)
題目:分子数の小さいモデル化学反応系の定常状態
Tea Time: 14:00 -
要旨:
「分子が少ない」場合に表面化する、化学反応動力学系に 対する2つの数理的表現、「微分方程式モデル」と「確率 過程モデル」、の狭間に触れる話をさせて頂きます。
非平衡化学反応系は、実に様々な時間的、空間的パターン を形成する。そしてこのような現象の理論的研究として、 これまでに様々な数理モデルの提案やその議論が、盛んに 行われている。
このような数理モデルのもっとも典型的なものは、各化学 成分の密度を連続変数とし、それらの時間変化を連立微分 方程式で表現した、微分方程式モデルである。このような モデル化は、実際、各成分の分子数が十分大きくなる、我 々の日常的なスケールで見られる現象に対し妥当であり、 またそのような現象に対する多くの知見を提供してくれる。
しかし例えば細胞内での反応等といった、ミクロな化学反 応過程の数理モデルを考える場合、事情は変わってくる。 このような系では、内部の各化学成分の全ての分子数が 「常に十分大きい」というわけではない。このような場合、 分子数が「多い」「少ない」という連続的な変化だけでな く、分子が「ある」「ない」という離散的な変化が、その 過程に顔をのぞかせるようになる。そのため、上記のよう な微分方程式によるモデル化、議論は、もはや有効でなく なると思われる。
ミクロな視点から眺めると、化学反応は、多数の分子のラ ンダムな移動、衝突によって、確率的に起こる出来事とし て捉えられる。そこで今回はある化学反応系を例に、その ミクロな反応過程を簡単な確率過程でモデル化し、この確 率モデルの動的、統計的性質を議論する。当然このモデル は、分子数が無限大の極限で、化学反応過程を微分方程式 でモデル化したものと、同等の性質を持つ。
今回は、このような確率モデルの数値シミュレーションの 結果を紹介する。そしてその結果を元に、i) (微分方程式 モデルが不適当になる程) 分子数が少ない状況で、化学反 応系はどのような挙動を示すのか? ii)そもそも分子数が 大きい(小さい)とは、どう評価され得るのか?等といった 問題について考える。

第4回

日時:6月5日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:齋藤 保久 氏(Department of Mathematics, Kyungpook National University, Korea)
題目:移動中の感染とPhase-Compartmental Model:基本再生産比の導出〜 Disease freeとパーマネンス
Tea Time: 14:00 -
要旨:
Transportation (i.e. population dispersal), a common phenomenon in human society, is considered as one of main factors that cause the disease outbreak. In 2003, for example, SARS broke out with some infection in an airplane. A report says that there was one person infected with SARS and 9 people around the man were infected during transportation.
SARS broke out with such a kind of situation caused by transport-related infection. That may lead to the importance of providing a mathematical groundwork in order to discuss the transport-related infection.
There have been many investigations concerning the effect of transportation (or population dispersal) on the spread of a disease. However, few studies consider the possibility for the individuals to become infective during transportation and no papers capture such a serious effect of transport-related infection in a precise and strict way.
In this lecture, we propose a simple model based on phase-compartmental model that can be general but essentially simple, and also mathematically tractable to discuss the transport-related disease infection.

第5回

日時:6月12日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:藤野 修 氏(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
題目:極小モデル理論の新展開
Tea Time: 14:00 -
要旨:
複素射影代数多様体の双有理分類理論は、代数幾何学の中心的問題の一つであ る。1次元、つまり、曲線については、19世紀にリーマンによって調べられ た。いわゆるリーマン面の話である。曲面については、20世紀前半のイタリア学 派の研究に始まり、小平による複素解析曲面の理論などを経て、双有理分類 的には満足のいく結果が得られている。一般次元の代数多様体については、70年 代の飯高による仕事を皮切りに、80年代には森理論(極小モデル理論とも 言う)の枠組みが完成し、分類理論攻略の明確な目標と戦略は確立していた。た だ、実際の証明の実行はかなり難しく、4次元以上では理論の完成はまだまだ 夢物語だと思われていた。ところがここ数年、この分野は再び激しく発展を始め た。一般次元の極小モデル理論が、ある種の特殊な設定のもとで完全解決され た。その応用として、例えば、代数多様体の標準環の有限生成性が証明された。 数年前までは考えられなかった状況である。専門家の立場からすると、まだま だ未解決の部分は多いが、かなり巨大な進歩である。今回はこの新しい最近の発 展についていろいろと述べてみたいと思う。

第6回

日時:7月3日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:後藤 竜司 氏 (大阪大学大学院理学研究科)
題目:一般化されたケーラー構造の安定性
Tea Time: 14:00 -
要旨:
一般化された複素構造, ケーラー 構造は Hitchin, Gualtieri により、導入された 複素構造とシンプレクティック構造と統一する幾何構造である.
講演では、最近得られた 一般化された ケーラー 構造の安定性定理を解説する. これは、Kodaira-Spencer によるケーラー構造の複素構造の(small) 変形のもとでの 安定性の拡張であり、証明には Calabi-Yau の変形の非障害性定理でのテク ニックを用いる.
応用として、射影空間やFano 曲面、そしてトーリック多様体 上に 一般化された ケーラー 構造が豊富に存在することを示す. この定理により、ケーラー多様体上の正則ポアソン構造から 一般化された ケ ーラー 構造が構成される.
講演では、具体的に2次元複素射影空間を取り上げる. 複素射影空間は複素多様体としては変形しないが、一般化された複素多様体とし ては、反標準束のセクションに応じて変形が得られる.

第7回

日時:7月10日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:樋口 雄介 氏(昭和大学富士吉田教育部)
題目:Spectral structure of the Laplacian on a covering graph
Tea Time: 14:00 -
要旨:
無限グラフ上の離散ラプラシアンのスペクトルに関しては多岐に渡った研究があ るが, 一般に具体的な構造を明示することは困難をきわめている. そこで有限グラフの正規被覆構造を持つ無限グラフを対象として, その上でのラプラシアンのスペクトル構造を記述することを目的とする. そこでは有限グラフである商グラフのスペクトル構造と被覆変換群 が重要な道具として用いられるが, さらに,商グラフである有限グラフが持つ "組合せ的構造" に光を当てることに より, その極大可換被覆グラフのスペクトルの持つ特異な性質が浮きぼりとなることを紹介 する.

第8回

日時:10月9日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:小川 卓克 氏(東北大学大学院理学研究科)
題目:半導体素子設計のモデル方程式と臨界ハーディー空間
Tea Time: 14:00 -
要旨:
半導体の素子設計には半導体中の電荷密度の時間変化と、 それら自身の作り出す電場の相互作用をモデル化して定式化される ある非線形非局所モデルが用いられる。それは流体力学的な モデルからの極限として導出される比較的簡単な系であり、 興味深いことに、走化性粘菌モデルや恒星の生成モデルと言った まったく物理スケールが異なるモデルと、数学的には共通する構造を持つ。 この講演ではもっとも簡単なモデルについての導出の概要と、 系に固有の臨界空間を規定して、そこでの方程式の解の適切性に ついて特に$L^1$ 型のエネルギー不等式を基軸に説明を試みる。

第9回

日時:11月13日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:江口 真透 氏(統計数理研究所)
題目:情報幾何と統計学の最近の話題
Tea Time: 14:00 -
要旨:
情報幾何は1980年代に甘利俊一氏によって提唱された数理科学の幾何的な 方法である.このトークではエントロピー,ダイバージェンスの連想する幾何構造 について焦点を当てる.この構造を積極的に利用した統計的パタン認識のための ブースティング学習アルゴリズムや,その応用としてバイオインフォマティクス における表現形の相関研究の応用例などについて紹介する.

第10回

日時:11月20日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:北野 晃朗 氏 (創価大学工学部)
題目:写像類群のMagnus表現と円周上の曲面束のL²-torsion 不変量について(東京農工大・森藤孝之氏との共同研究)
Tea Time: 14:00 -
要旨:
境界成分1つのコンパクトな曲面の写像類群に対して, Magnus表現と呼ばれる写像がFoxの自由微分を用いて定義される. このMagnus表現は曲面の基本群(この場合は自由群)の群環上の正則行列として 定義される. 基本群の非可換性から通常の意味での行列式は定義できないが、 Fuglede-Kadison行列式と呼ばれる作用素環論で用いられる行列式を考え, その意味でMagnus表現の像の特性多項式を考えると これは L²-torsionと呼ばれる不変量に対応している. さらにこの不変量は対応する3次元多様体(円周上の曲面束)の双曲的体積に対 応している. この講演では自由群の降中心化列を用いて定まるL²-torsion不変量の系列の 性質や振る舞いについて、 幾何構造との関連で予想されることを具体例の計算と共に解説する.

第11回

日時:11月27日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:Peter Hellekalek 氏(University of Salzburg)
題目:Pseudo-Randomness, Quasi-Monte Carlo, and Related Concepts from Metric Number Theory
Tea Time: 14:00 -
要旨:
Random number generators (RNGs) are a basic tool in applied cryptography as well as in stochastic simulation (keyword: Monte Carlo Method). Bad RNGs may not only ruin your simulation or your internet casino but also, in some (rare) cases, cost you your life (keyword: Russian one-time pads).
In this talk, we will begin with general remarks on (pseudo-)randomness. Randomness is in the eye of the beholder. Hence, RNGs come in many different flavours. They all have their deficiencies and, in many cases, unwanted side-effects. We will discuss some of the basic concepts involved.
What is a good random number generator? There is no general answer to this question, but we will present the fundamental concepts for the theoretical and empirical assessment of RNGs.
In the last part of the talk, we will relate some concepts of metric number theory that were applied to assess RNGs to so-called quasi Monte Carlo point sets. Such point sets and sequences are of increasing interest in financial mathematics and other applications.

第12回

日時:12月4日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:三上 敏夫 氏(広島大学大学院工学研究科)
題目:確率過程の最適制御と周辺分布問題
Tea Time: 14:00 -
要旨:
確率過程の最適制御の数学的な研究は、1960年代半ばから始まった。 この講演では、確率最適制御により、与えられた周辺分布をもつ確率過程、特に、拡散過程の構成法をあたえる。 また、時間があれば、新たに導出された汎関数方程式についても触れた い。

第13回

日時:12月18日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:伊山 修 氏(名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
題目:クラスター傾理論
Tea Time: 14:00 -
要旨:
森田理論や傾理論は、多元環の加群圏や導来圏の同値を扱うものだが、クラスター傾理論は、大雑把に言うと、与えられた多元環Λを性質の良い多元環Γの一部として扱うものである。Γの性質の良さとしては、大域次元の有限性に加えて一種のGorenstein条件を要請する。その典型は、Auslander-Reiten理論の出発点となる次の結果にある。

定理(Auslander, 1971) 有限表現型有限次元多元環Λの森田同値類全体と、大域次元が2以下でdominant次元が2以上の有限次元多元環Γの森田同値類全体の間に、一対一対応が存在する。対応はΛに対して、全ての直既約Λ-加群の直和をMとした時、Γ:=End_Λ(M)により与えられる。

この定理の類似として、大域次元がn以下でdominant次元がn以上の多元環を考察すると、有限表現型多元環の代わりに(n-1)-クラスター傾加群と呼ばれる対象が出現する。2-クラスター傾加群は、Fomin-Zelevinskyのクラスター多元環の圏論化を与えるものとして盛んに調べられている。またn次元Gorenstein環上の(n-1)-クラスター傾加群からは、n次元のCalabi-Yau多元環が得られる。
講演ではクラスター傾加群の幾つかの例を紹介する。

第14回

日時:1月8日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:石田 政司 氏(上智大学理工学部)
題目:Einstein計量, Ricci流, そして異種微分構造
Tea Time: 14:00 -
要旨:
1970年代初頭に、4次元多様体上のEinstein計量の存在は、その多様体に位相的な制限を与えることが知られていました。一方、1980年代初頭のFreedmann, Donaldsonらの大きな仕事をきっかけに、4次元 多様体の世界には位相構造は同じでも微分構造が異なる多様体(異種微分構造)が特殊なものではなく、極めて豊富に存在することが現在知られています。即ち、4次元位相多様体でいくつもの異なる微分構造を許容するものが、豊富に存在します。さらに1990年代初頭のSeiberg-Witten方程式の導入以後、4次元多様体上のEinstein計量の存在、非存在問題は位相構造にのみ依存する問題ではなく、実は、微分構造にも依存する問題であることが現在明らかとなっています。大変興味深いことに、4次元ではこのような現象が、Einstein計量に限らず、反自己双対計量、Ricci流の解といった、全く性質の異なる他の計量構造に対しても起こることが判明しています。本講演では、4次元特有と思われるこれらの現象について紹介する予定です。講演題目と同じ題目の論説を、「数学」(第59巻第4号)に書かせて頂いたので、そちらも御覧になって頂ければ幸いです。

第15回

日時:1月15日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:島田 伊知朗 氏(北海道大学大学院理学研究院)
題目:数論的Zariski pairについて
Tea Time: 14:00 -
要旨:
同じ次数と同じタイプの特異点をもつが変形では移り合わない複素射影 平面曲線のペアをZariski pairという. 最初の例は,1930年代にZariskiによって発見された 6個の通常尖点をもつ6次曲線のペアである. この講演ではZariski pairの研究における様々な手法を紹介し, ガロア群の作用で移り変わるZariski pairの例の構成について述べる.

第16回

日時:1月29日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:小川 束 氏(四日市大学環境情報学部)
題目:関孝和の数学と建部賢弘
Tea Time: 14:00 -
要旨:
建部賢弘(1664--1739)は今年没後300年を迎えた関孝和(?--1708)の高弟と して早い時期から有名でしたが,関の業績すべてを引き継いだわけではありませ ん.今回は建部の数学と関の数学の比較を通して,当時の数学の成行きのひとこ まを紹介します.また,現在の関孝和研究,建部賢弘研究の情勢,今後の課題に ついてもお話したいと思います.

2006年度以前


Date: 2008.1.29
談話会委員 作間,須川,高橋,木村,瀬野,田丸

大学院理学研究科数学専攻