●●● 談話会 ●●●

2006年度

第1回

日時: 4月25日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:小林 俊行 氏(京都大学数理解析研究所)
題目:可視的な作用と重複のない表現
Tea Time: 14:00 -
要旨:
 同じ表現が高々1度しか現れない表現を「重複のない表現」という。
 あまりに当たり前すぎて、普段は表現がそこに現れることさえ意識しない 古典的な展開定理(Taylor展開やFourier展開や球関数展開…)においても、 実は、背後には「重複のない表現」という代数構造がしばしばある。
 談話会では、まず「重複のない表現」の種々の例を紹介する。
 次に、実部分多様体と軌道の交叉の状況に着目して 「複素多様体における可視的な群作用」という概念を提唱する。
 最後に、種々の「重複のない表現」が、有限次元の場合だけでなく、 連続スペクトラムを含むような無限次元の場合にも、 「可視的な作用」という一つの原理で統一的に理解・発見できる ことを解説する。

第2回

日時:5月 9日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:田原 秀敏 氏(上智大学理学部数学)
題目:複素領域での非線型偏微分方程式の解の特異点について
Tea Time: 14:00 -
要旨:
複素領域で, 超曲面 $S$ とそれを非特性曲面とする 偏微分方程式 (E) を考え, 次の問題を考える。 \begin{center} 問題:$S$ 上にのみ特異点をもつ解は存在するか? \end{center} 方程式が線型の時は, そのような解は存在しない(Zernerの定理)。 しかし, 方程式が非線型の時は, $S$ 上にのみ特異点をもつ解は (一般的には)たくさん現れる。このように, 上の問題では, 線型と非線型の差が如実に現れており, 講演者には大変興味深く 思われる。講演では, この問題に関しての発展の様子を, 非専門家向けの話として, 紹介したい。

第3回

日時:5月23日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:廣川 真男 氏(岡山大学大学院 自然科学研究科)
題目:非相対論的場の量子論における作用素解析学
Tea Time: 14:00 -
要旨:
近年、非相対論的場の量子論における作用素解析学が盛んに研究され発展してき た。非相対論的場の量子論は、低エネルギー(従って非相対論的)領域を扱うが、 粒子やスピンが量子場と相互作用した模型を記述するため、量子光学、固体物理 などへの応用を持つ。そこで講演では、作用素解析学のそれらの物理への応用の 紹介と、低エネルギー特有の発散問題である赤外問題について述べる。

第4回

日時:6月13日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:山内 卓也 氏(広島大学大学院 理学研究科)
題目:Artinの原始根分布問題について
Tea Time: 14:00 -
要旨:
0,±1 以外の整数 a を一つ固定し、素数 p を動かしたとき、いつ
_
a = a mod p が巡回群 Z/pZ を生成するかという Artin の原始根分布問題とその周辺について解説する。この問題は、
所謂、"difficult arithmetic" と呼ばれるタイプの問題であり、見かけの単純さと違って、この問題を深く理解することは
容易ではない。ここでは、一般化されたリーマン予想(GRH) の仮定の下に、与えられた整数 a に対して、
_
a = a mod p が巡回群 Z/pZ を生成するような素数 p の密度公式をHooley の論文に沿って紹介する。 
この結果は上記の問題に定量的な解答を与えている。また、時間が許せば、この問題の楕円曲線や
アーベル多様体などへの拡張、及び、暗号理論などへの応用なども紹介したい。

第5回

日時:6月27日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:富澤 貞男 氏(東京理科大学理工学部)
題目:統計学における正方分割表の解析について
Tea Time: 14:00 -
要旨:
統計学における行分類と列分類が同じである正方分割表, たとえば,ある集団の左右裸眼視力データ,において,分類間の未知の確率構造 として,独立性よりはむしろ対称性の構造に多くの人は関心がある.左右裸眼視 力データの場合,どのように対称性は成り立っているのか,または,どのように 対称性が崩れているのかを推論することに関心がある.本講演では,種々の対称 性や非対称性のモデル,モデルの分解,そして尺度等を適用例とともに紹介する.

第6回

日時:7月 4日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:高岡 浩一郎 氏 (一橋大学大学院商学研究科)
題目:数理ファイナンスについての紹介
Tea Time: 14:00 -
要旨:
数理ファイナンスが脚光を浴びている社会的背景の解説から始まり, デリバティブ(派生証券)とは何か,どのような数学が使われてい るのか,実務にどう役立っているか,などについて紹介を行います.

臨時談話会

日時:7月13日(木),14:30 - 15:30
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:青木 和麻呂 氏(NTT情報流通プラットフォーム研究所)
題目:暗号の中の数学
要旨:
従来、工学的な応用が考えられなかった整数論も公開鍵暗号の発明以降、暗号 分野では様々な利用法が考えられてきた。暗号理論への応用を考える上で、計 算量の議論を抜きにすることは出来ず、数学的な考え方と異なる部分も多い。 この点さえ許容すれば暗号理論へ利用可能な数学的技術は数多く存在する。本 発表では、暗号分野での考え方、暗号理論で求められことを説明し、いくつか の数学的技術の応用例を紹介する。その後、著者が最近手掛けている巨大整数 の素因数分解を高速化する上で未解決の問題をいくつか紹介する。

第7回

日時:10月24日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:小松 彦三郎 氏(東京大学大学院数理科学研究科)
題目:「大成算経」を読む − 關と建部兄弟にとって数学は何であったのか
Tea Time: 14:00 -
要旨:
「大成算経」は關孝和(1642?-1708)とその弟子建部賢明と賢弘兄弟が 1683年から1710年まで28年かけて書いたとされる全20巻約1800ページの大著 である。關の「解伏題之法」(1683)によって代数方程式系の未知数消去の理 論が完成し、代数方程式で表現できるすべての問題が原理的に解けるようにな ったのを契機に、当時の数学をすべて網羅する理論書として書かれた。今回は このうち序論である「首篇」と第四巻「三要」を取り上げて一緒に読んでみた い。この第四巻は、例えば藤原松三郎が書いた「明治前日本数学史」では『す こぶる異様なもので、數学の理論としては意義のないものであるが、』と評さ れているが、私は數学は何のためにあって、何をするのかという根源的な問い に真正面から答えようとした巻であると思う。 そもそも私が日本数学史に取り組むようになったのは約十年前現行の学習指導 要領の大綱をきめた文部省課程審議会の後半に参加して手痛い敗北をなめてか らである。三浦朱門会長は、妻の曽野綾子が「2次方程式の解の公式など人生 一度も使わなかったけれど、困ったことはなかった」といっているといってこ の公式を中学から追放し、西沢潤一副会長は「私の発明はことごとく数学的に 不可能だという連中によって妨害された」といって、理科から数式を追放し文 学に変えてしまった。彼らは数式の意義、すべての学問の数学的な理論が、対 象そのものではなく、対象の数学的モデルの理論であるということを知らな い。300年前の日本人はわれわれよりはるかに不便な数式しか知らなかった し、自然学の伝統もなかったにもかかわらず、今日の日本の指導者達よりはる かに深く数学の役割を理解していた。

第8回

日時:11月14日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:加藤毅氏(京都大学大学院理学研究科)
題目:力学系のパターン形成とファミリーの繰り返し写像
Tea Time: 14:00 -
要旨:
力学系のくり返し理論は射影することにより記号力学系と関係を持ってきます。 一方で、記号力学系はオートマトンと関係を持っていますが、 ロトカボルテラ 方程式やKdVのような数理物理にあらわれる非線形の方程式が離散化 されることでオートマトンと関係を持っており、 その手続きにトロピカル幾何学が用い られています。 このように、それぞれ数学としては違う性質を持っているものどうしが、 スケールの変換をすることで結びついています。 ここでは、力学系のくり返し理論のようにカオスをその性質として持つ対象が、 いくつかのスケール変換のステップを通じて可積分系のような、 剛性をもつ対象と関 係してくることを解説します。

第9回

日時:11月28日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:平岡 裕章氏(広島大学大学院 理学研究科)
題目:ホモ/ヘテロクリニック軌道に対する精度保証と偏微分方程式への応用
Tea Time: 14:00 -
要旨:
力学系に現れるホモ/ヘテロクリニック軌道の精度保証付き数値 計算に関して講演を行う.なぜ精度保証付きで数値計算を行う必要があるのか, 数学的な面白さはどこにあるか,といったことを意識しながら解説をしていく. 具体的には ・Conley指数を用いたヘテロクリニック軌道存在証明法 ・メルニコフ関数を用いたホモ/ヘテロクリニック軌道存在証明法 及び,それらの偏微分方程式への応用について簡単に紹介していく.

第10回

日時:12月5日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:塩田 徹治 氏(立教大学)
題目:K3曲面とモーデル・ヴェイユ格子
Tea Time: 14:00 -
要旨:
関数体上の楕円曲線の有理点のなすモーデル・ヴェイユ群について、 曲面の交点理論を用いて)これを「格子」とみなす標準的方法がある。 対応する曲面が有理曲面のときは、ルート格子E_8を介して、ほぼ完璧な 理論ができていて、豊かな内容をもつ実例にも事欠かない。
より一般の場合には、まだ我々の知識は十分でない。
K3曲面の場合、最近多少の進展があるので、談話会ではそれらを含め お話したい。

第11回

日時:12月19日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:中木 達幸 氏 (広島大学大学院理学研究科)
題目:渦点運動における緩和振動について
Tea Time: 14:00 -
要旨:
2次元 Euler 方程式にしたがう流体中の複数の渦は,渦群から発生 する流れにより,時間と伴に移動するという相互作用をもつ.渦が 渦点の構造をもつとき,この現象は Hamiltonian をもつ常微分 方程式で記述される.ある状況下で,この方程式は heteroclinic 軌道をもち,このことは渦群が緩和振動することに対応する.ここで, 緩和振動とは,渦群がほとんど静止した状態と急速に動くことが交互 に現れる周期運動のことである.本講演では,最近得られた結果を含め, heteroclinic 軌道の存在について紹介する.

第12回

日時:1月30日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:柳原 宏和 氏(広島大学大学院理学研究科)
題目:クロスバリデーション規準のバイアス補正法
Tea Time: 14:00 -
要旨:
本報告の目的は, モデル選択問題におけるある種のダイバージェンスに基づいたリス クに関するクロス・バリデーション規準のバイアスを補正することにある. クロス・ バリデーション規準はモデル選択問題において頻繁に用いられる情報量規準である が, リスクに対するバイアスは常に存在する. 標本数が多い場合には問題は無いが, 標本数がさほど大きくない場合, また観測値の次元が大きい場合, 更には候補のモ デルの未知パラメータ数が多い場合などでは, そのバイアスを無視できない状況も起 こる. 一般的に用いられるバイアス補正法では, まずバイアスの展開式を導出し, そ の第一項目を推定量に加えることにより行う. しかしながらそのような方法では, 具 体的な展開式導出する必要があり, また未知パラメータが存在すれば, その推定も行 わなければならない. 一般的にバイアスの展開式は高い次数のキュムラントに依存し ていることが多く, その推定はキュムラントの次数が上がれば上がるほど困難にな り, 実用的であるとは言い難い. そのため, 本報告では, クロス・バリデーション規 準のバイアスを, バイアスの展開式を導出することなく, 更に高次キュムラントを推 定することなく補正できる方法を紹介する.

第13回

日時:2月6日(火),13:00 - 14:00
場所:大学院理学研究科 B707号室
講師:Haseo Ki (Yonsei University)
題目:"Zeros of sums of the Riemann zeta function"
Tea Time: 14:00 -
要旨:
We study zeros of sums of the Riemann zeta function. We investigate the exact location where almost all zeros of the functions are. For the proof, we use the mean motion of the Riemann zeta function and a Selberg's argument.

2005年度以前


Date: 2007.01.23
談話会委員 若木、石井、野々村

大学院理学研究科数学専攻