広島大学 トポロジー・幾何セミナー 講演者アブストラクト
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1/14:見村 万佐人 氏(東北大学理学研究科)-ケーリー位相での群の近似と、“粗い”幾何:従順群の“粗い”埋め込み
本研究は酒匂宏樹氏(東海大学)との共同研究である.非有界距離空間に対し,
「とても遠い」か「あまり遠くない」かという情報のみで決まる性質を調べるの
が"粗い"幾何(coarse geometry)の考え方である.この考え方での「空間の間
の単射」に相当するものが“粗い”埋め込み(coarse embedding)と呼ばれる写像
である.特に,与えられた距離空間が無限次元ヒルベルト空間への“粗い”埋め込
みをもつか,という問題は大変重要な問題であり,例えば距離空間が有限生成無
限群(のケーリーグラフ)であるときはノビコフ予想などと関わることが知られ
ている.本講演では,無限距離空間が次数が一定の有限ケーリーグラフの列を集
めてできる空間(coarse disjoint union と呼ばれる)である場合を扱う.この
とき,考えている有限群たちを“ある空間(the space of marked groups)の点
たち”と思って,“ある位相”(Cayley 位相と呼ばれる)でのその点集合の境界を
考え,この“境界”に属する無限群の性質を調べることで,この問題に取り組む.
具体例として,行列のサイズが上がっていくような有限特殊線型群たちに対し,
生成集合系を2つとってきて,それぞれの生成系に対するケーリーグラフの
coarse disjoint union の“粗い”幾何での性質がどのように違ってくるか,を考
察したい.
12/10:嶺山 良介 氏(大阪大学大学院理学研究科)-符号数(n-1,1)を持つCoxeter群の極限集合
古典的にCoxeter群は鏡映変換(の一般化)としてベクトル空間へ作
用することが知 られている.
2010年にHohlweg, Labbe, Ripollは無限Coxeter群のルート系を調べるため, こ
の作用のある超平面への正
規化を考えた. これは全てのCoxeter群に関して定義されるものであるが, 特に
(n元生成)Coxeter群に付随
する対称二次形式の符号数を(n-1,1)と仮定したとき 正規化された作用はGromov
双曲的なCAT(0)空間へ
の離散的な等長変換としての作用を誘導し, Coxeter群の極限集合と呼ぶべきも
のを定義することが出来る.
この講演では上の仮定の下でルート系の集積点集合と極限集合の関係, また
Coxeter群のGromov境界か
ら極限集合へのCannon-Thurston写像の存在性について述べる.
12/3:中田文憲 氏(福島大学人間発達文化学類)-非コンパクト不定値自己双対多様体に関するツイスター対応について
符号 (2,2) の不定値自己双対共形構造に関するツイスター対応が LeBrun と
Mason によって開発されたが,
LeBrunらの議論ではコンパクト性を仮定しているため,
Zollfrei 性という非常に強い条件が必要になる.
本講演では, 正則円板を用いる LeBrun-Mason のアイデアを紹介したうえで,
非コンパクトな場合で最も簡単なケースと考えられる,
R^4 上の R-不変な不定値自己双対共形構造に関するツイスター対応について紹
介し, この場合は Zollfrei性にあたるものが必要ないこと,
またこの議論が Radon 変換や波動方程式と関係していることを紹介する.
11/26:小畑 久美 氏(近畿大学工学部)-自己同型グラフと巡回自己同型グラフについて(大野泰生氏との共同研究)
グラフとその補グラフに異なる色を付け重ね合わせると2色の辺着色完全グラフとみなすことができ,
一般のr色の辺着色完全グラフのr=2の場合に対応している.この観点から自己補性の概念を拡張して
巡回自己同型グラフを定義し,自己補グラフの数え上げに関するRoyle予想の核となった公式の,
辺着色(2部)グラフと辺着色有向グラフの場合への一般化を紹介する.またハイパーグラフの場合にも
同様の一般化を紹介する.
11/12:Cyril Lecuire 氏(Universite' Paul Sabatier)-Discontinuous action of Out(Fn) and discrete representations
For a free group F, there is a natural action of Out(F) on the space of representations
Hom(F,PSL(2,C)). Minsky introduced an open subset PS(F) (for primitive stable representations)
on which Out(F) acts properly discontinuously. I will explain the definition of this set PS(F) and
a method to construct discrete representations in PS(F) that are not faithful.
11/5:M田 法行 氏(東京大学大学院数理科学研究科)-Decompositions of positive relations in the mapping class group
曲面の写像類群において, 右手デーンツイストの組でその積が identity になる
ものを positive relation と呼ぶ. 一方, シンプレクティック4次元多様体の
上位構造として Lefschetz fibration とよばれるファイバー構造があり,
そのモノドロミーとして positive relation が自然に現れる.
本講演では, positive relation に対し, 2-chain relation と lantern relation
と呼ばれる二つの基本的な関係式への組合せ論的な分解(CL分解)を導入し,
重要な positive relation たちに対して具体的な CL分解の例を与える.
またこの分解に関連して現れる Lefschetz fibration の族について解説する.
10/22:浮田 卓也 氏(東京工業大学大学院理工学研究科)-Akbulut-Yasui plugのPALF構造とplug twist
Loi-Piergalliniにより, コンパクトStein曲面はPALF (positive allowable
Lefschetz fibration)構造を許容することが示された. 一方, Akbulut-Yasuiは
コンパクトStein曲面にcork twistやplug twistを施すことにより,
エキゾチックなStein曲面の様々な無限族を構成している. 本講演では,
すべてのAkbulut-Yasui plugに種数1のPALF構造を構成する新しい方法を紹介する.
その応用として, plug twistによってうつり合う2つのStein曲面のPALF構造
の違いを写像類群の言葉で記述する.
10/8:芦原 聡介 氏(広島大学理学研究科)-リボントーラス結び目の基本カンドルと基本バイカンドル
基本カンドルと基本バイカンドルが有向曲面結び目の不変量として定義されている。
しかし、基本カンドルは曲面結び目に対して完全不変量とならないことが知られている。
バイカンドルはカンドルの一般化であり、カンドルより多くの情報をもつ。
一方、同型な基本カンドルをもつが異なる基本バイカンドルをもつ曲面結び目が
存在するかどうかは知られていない。
本講演では、同型な基本カンドルをもつリボントーラス結び目は同型な基本バイ
カンドルをもつことを示す。
7/16:Yo'av Rieck 氏(University of Arkansas)-On the distance of Heegaard splittings of hyperbolic 3-manifolds
(joint work with Tsuyoshi Kobayashi)
This is an introductory talk to our work about the distance of Heegaard splittings of
hyperbolic 3-manifolds.?
A (complete, finite volume) hyperbolic 3-manifold is a 3-manifold equipped with
a riemannian metric with certain very nice properties.? The volume of a hyperbolic 3-manifold M,
denoted by Vol(M), is a measure of its complexity.?
A Heegaard surface for a 3-manifod M is a surface F embedded in M that decompose M
into two simple pieces called handlebodies.?There are two ways in which we say that
F is simple: first, if it genus is small.?Second, if its distance (as defined by Hempel
using the curve complex) is at most 2.?(We will explain this condition in the talk.)?
Our goal is to show that a Heegaard surface F of a simple hyperbolic 3-manifold is itself simple;
more precisely we prove:
THEOREM: There exists a constant L>0 so that if M is a generic hyperbolic 3-manifold and
F is a Heegaard surface for M, then either g(F) < LVol(M), or the distance of F is at most 2.
We will sketch the proof in the following steps:
??? ? By Jorgensen and Thurston, there is a constant K>0 so that any hyperbolic 3-manifold M
is obtained by Dehn filling a manifold X, so that X can be triangulated using at most K Vol(M) tetrahedra.?
We note that this is the only property of hyperbolic 3-manifolds we will use.
??? ? Following Rieck and Sedgwick, if M is obtained from X as a generic Dehn filling,
then every Heegaard surface F for M is a Heegaard surface for X.? The term generic appearing
in the statement of the theorem refers to this.
??? ? Finally, we show that if F is a Heegaard surface for X of high genus then its distance is at most 2.?
It follows that F (as a Heegaard surface of M) has distance at most 2 as well.? This follows from
the following result, which is of independent interest and is a strong version of a result of Schleimer:
THEOREM:? Let X be a manifold that admits a triangulation using at most t tetrahedra
and F a Heegaard surface for X.? If g(F) \geq 76t +26, then d(F) \leq 2.
We will conclude the talk with the idea of the proof.
7/9:井上 玲 氏 (千葉大学理学研究科)-クラスター代数と2橋結び目の複素体積
クラスター代数を用いてあるクラスの3次元双曲多様体のmodulusと
flatteningを構成し, 双曲体積, およびChern-Simons不変量と合わせた
複素体積を求める方法を述べる.
特に, 2橋結び目の補空間の理想四面体分割に応用した場合の
具体的な計算方法を紹介する.
本講演は樋上和弘氏(九州大学)との共同研究に基づく.
6/25:武富 雄一郎 氏(広島大学理学研究科)-非コンパクト対称空間への群作用を用いた代数的リッチソリトンの研究
講演者は代数的リッチソリトンと呼ばれるリー群上の特別な左不変計量を,
ある種の非コンパクト対称空間への群作用の幾何を用いて研究している. 本講演では,
代数的リッチソリトンの存在・非存在性と非コンパクト対称空間への余等質性1作用の
様相がよく対応していることを紹介する. 本講演は広島大学の田丸博士先生との共同
研究に基づく.
6/18:Ken Baker 氏(University of Miami)-Unbounded bridge numbers
Joint work with Gordon & Luecke provides a means to create
controlled 1-parameter families of knots for which the set of their bridge
numbers with respect to a given Heegaard surface is unbounded. We'll
overview this work and discuss several applications to questions in Dehn
surgery and knot theory.
6/7:Zoltan Musznay 氏(University of Debrecen)-About the holonomy of Finsler manifolds
The holonomy group of a Riemannian or Finslerian manifold is the group generated by parallel translations along closed curves.
The Riemannian holonomy groups have been extensively studied and by now, the complete
classification is known. In this talk it will be shown through new results,
that the holonomy properties of Finsler manifolds can be very different from those of Riemannian manifolds.
6/4:土井 英雄 氏(広島大学理学研究科)-Morley の3等分線定理概説
この有名な定理は有名/無名の人々による証明が知られています.
E.Borel , H.Lebesgue も論文を書いていますし, R.Penrose 著作集 第一巻 冒頭論文にある証明は
Coxeter の幾何学入門にも収録されています.
星の数ほどある証明の中で最高傑作は, J.Conway の手品のような証明と, A.Connes による群論的証明でしょう.
講演では, F.G. Taylor & W.I.Marr 1913 による角の3等分線を一般角の3等分線に拡張することによって得られる27 個の正三角形,
www-cabri.imag.fr/abracadabri にある, 内角外角優角の3等分線に拡張することによって得られる54 個の正三角形について解説したいと思います.
3等分線定理に関する物語でもっとも知られいない事柄は, 多分F.Morley 氏はどうのように証明したかということだと思います.
手がかりは日本にあります.
On the intersections of the trisectors of the angles of a triangle
by professor Frank Morley
(from a letter directed to prof. T.Hayashi)
日本中等教育数学会雑誌(1924) に発表されたこの論文で F.Morley 氏自身の証明と発見の経緯が明解に述べられています.
図形的にも興味深いので graphics ともに紹介したいと思います.
5/28:村杉 邦男 氏(トロント大学数学教室)-結び目多項式の安定性とその応用について
始めによく知られた実係数多項式の種々の安定性(つまり、これらの多項式
の零点の性質)について、そのを定義を含めて簡単に解説する。次に結び目多項式(
アレキサンダー多項式、Conway多項式など)の安定性と結び目理論の予想との関係を
述べる。最後にA'CampoのdivideとCoxter linkのアレキサンダー多項式の安定性と整
係数多項式のMahler measureについての Lehmer問題(予想)との関係について話をし
ます。
5/21:古賀 勇 氏 (九州大学)-平行な第2基本形式を持つ複素グラスマン多様体の部分多様体について
複素射影空間はFubini-Study型計量によって正則断面曲率が一定になるというすばら
しい性質から,その部分多様体の,曲率のピンチングによる分類に関する結果がたくさんある.
しかし,これらの結果を複素グラスマン多様体の部分多様体に拡張するという事は,
ほと・どされていない.ここには,一般の複素グラスマン多様体と複素射影空間
との間にある様々なギャップが問題として横たわっている.
本講演では,このギャップを解消するために正則ベクトル束の理論を用いる方法
と,それによる講演者と明治大学の長友康行氏による共同研究の結果を紹介する.
5/14:秋吉 宏尚 氏(大阪市立大学)-錐特異点を持つトーラス上の双曲構造の構成
錐特異点を1つ持つトーラス上の双曲構造の標準的な構成について,
最近得られた結果を紹介する.そのような構造に関するホロノミー表現は,
2元生成自由群のPSL(2,R)表現で生成元の交換子積が楕円的元であるようなものとなる.
逆に,像が相対コンパクトであるような例外を除けば,そのような表現を
ホロノミー表現として持つ双曲構造が存在することがGoldmanにより,またそのような表現が
"BQ-condition"を満たすことがTan-Wong-Zhangにより示されている.
本講演では表現の幾何的なパラメータづけを紹介したあと,与えられた表現に対する
"標準的な"生成元を求める方法を紹介する.その応用として,穴あきトーラスに対する
Jorgensen理論の類似が,PSL(2,R)表現に対しては得られることを紹介する.
5/7:高尾 和人 氏(広島大学理学研究科)-ハンドル分解と直積写像の特異点
ハンドル分解が与える組合せ的な図式は、3・4次元多様体の
基本的な記述方法である。与えられた2つの図式が表す多様体を判別することは
難しいが、もし同じ多様体を表すなら図式は有限回の基本変形で移り合う。
そこで、移り合うときに要する基本変形の最小回数をもとの図式から計算可能な数を
用いて上から評価する、という研究が想起される。本講演では、
そのような研究に向けた、ある特異点論的なアプローチを紹介する。
4/23:風呂川 幹央 氏(広島大学理学研究科)-一点穴開きクラインボトル擬フックス群のフォード領域
Jorgensenは一点穴開きトーラス擬フックス群のフォード領域の組み
合わせ構造を完全に記述した.今回一点穴開きクラインボトルフックス群及び特
別な一点穴開きクラインボトル擬フックス群のフォード領域の組み合せ構造をJo
rgensenの方法を拡張することにより記述できた.また一点穴開きトーラス擬フ
ックス群とは様子の異なるフォード領域も見つけることができた.本講演ではこ
の一点穴開きクラインボトル擬フックス群のフォード領域の組合せ構造に関する
研究の途中経過報告を行う.
4/16:阪田 直樹 氏(広島大学理学研究科)-双曲的ファイバー二橋絡み目補空間の標準的分割
有限体積カスプ付き3次元双曲多様体は, 標準的分割と呼ばれる理想多面体分割を持つ事が知られている。
Jorgensenは1点穴あきトーラスバンドルの標準的分割が,そのファイバー構造に関して“階層的”であることを発見した。
しかしファイバー構造を持つ双曲多様体の標準的分割が常にそのような性質を持つかどうかは分かっていない。
本講演ではA’Campoにより導入された調和的1-コサイクルを双曲的ファイバー二橋絡み目補空間の標準的分割に対して具体的に計算することにより, その標準的分割がファイバー構造に関して“階層的”であることを証明する。
幹事:
作間 誠 E-MAIL :
sakuma@math.sci.hiroshima-u.ac.jp
田丸 博士 E-MAIL :
tamaru@math.sci.hiroshima-u.ac.jp
渋谷 一博 E-MAIL :
shibuya@hiroshima-u.ac.jp
安井 弘一 E-MAIL :
kyasui@hiroshima-u.ac.jp