広島大学理学部数学科紹介
数学迷宮へようこそ! 数学科にはいくつかの研究グループがあり、現代数学の基礎を学習して幅広い知識を修得すると同時に、高度な論理性と弾力的な数学的思考力を身につけることができます。フェルマー予想やポアンカレ予想など、数学の歴史的難問が最近解決されましたが、リーマン予想や P=NP 予想など未解決の問題が数多く残っています。数学迷宮を探検して未解決の難問に挑戦し、あなた独自の難問を見つけてみませんか?
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代数数理グループ
スタッフ: 木村 俊一(教授)、島田 伊知朗(教授)、高橋 宣能(教授)、是枝 由統(特任助教)、助永 真之(特任助教)
最も古くて、最先端。純粋理論だけど、すごい実用も。
私達が興味をもって取り組んでいる対象は、代数幾何学・数論・離散数学です。
代数幾何学は代数的に得られる図形の性質を調べる研究分野です。
代数的に得られる図形とは、例えば、方程式 xn+yn-zn=0 を満たす点(x,y,z)の集合という意味です。
この場合は代数曲線と呼ばれますが、更に高い次元の空間の中ではいくつかの多変数多項式の共通零点からなる代数多様体が研究対象となります。20世紀になり群を初めとする代数学の基本概念が整備されるにつれて、代数幾何学は急速に発展しました。代数的に得られる図形は自然界にある図形の中でも基本的なものなので、数学の他分野ばかりでなく物理学や情報理論などとのつながりも深く、応用の広い分野です。
数論は数学の中で永い研究の歴史があり、数多くの著名な数学者の寄与がある分野です。彼らを強くひきつけた魅力的な超難問(フェルマーの予想、リーマンの予想、レオポルドの予想など)があり、これらを解く努力のなかでさらに新しい問題が生まれてくるのが数論の魅力です。17世紀以来の難問だったフェルマー予想の解決(ワイルズ、1994年)においては、保型形式の数論や数論幾何学といった現代的理論が縦横に用いられました。問題自身は簡単に述べることができても、その背後には、永年にわたって積みあげられた現代数学の最新の理論により、ようやく解明することが可能になった、深遠な世界が横た
わっていたのです。
また、かつては純粋理論と見られがちだった代数学です
が、コンピュータの発達に伴い応用上も不可欠なものとなっています。コンピュータの動作原理は、有限集合上で代数演算を繰り返すことです。このため、データの暗号化、符号化、乱数発生、準モンテカルロ法など、多くの分野で高度な代数学が使われています。こういった有限集合の代数学、グラフ理論などの離散数学も、我々の主要な研究テーマの一つです。
多様幾何グループ
スタッフ:
石原 海(教授)、藤森 祥一(教授)、奥田 隆幸(准教授)、Luis Pedro Castellanos Moscoso(特任助教)
図形と空間 ―素朴な対象に潜む真理の探究―
幾何学の研究対象は、図形と空間です。高等学校までに、三角形や円や放物線などの平面図形(曲線)、あるいは球や円錐などの空間図形(曲面)を習いますが、これらも幾何学の研究対象です。現代幾何学では、3次元や4次元の空間(宇宙)、あるいはもっと次元の高い空間、そしてその内部の図形などを研究します。このような図形や空間は複雑です。たとえば次元が高い図形や空間は、直接目で見ることは不可能で、頭の中で想像することも困難です。しかし、複雑であっても、その本質は平面図形や空間図形に隠されているのです。平面図形や空間図形を理解し、その本質を抽出して一般化することで、複雑な図形や空間を調べる手掛かりが得られます。また、図形や空間が複雑だと言う場合に、それは単に次元が高いことを意味する訳ではありません。次元が低い場合でも、たとえばメビウスの帯やクラインの壺などのように、複雑かつ面白い図形がいくつもあります。次元が低い場合と高い場合の両者に共通の現象も多くありますが、それぞれに固有の現象もあり、どちらも幾何学的に興味深い研究対象です。
私たちの多様幾何グループでは、図形や空間の研究を微分幾何とトポロジーの双方の立場で行っています。微分幾何では、円と楕円は区別し、その曲がり具合に注目します。曲がり具合を測るために、曲率という量を考えます。トポロジーでは、なめらかに動かして移りあうものは同じと考えるため、円と楕円と三角形は同じもの、ドーナツとコーヒーカップは同じものとみなします。トポロジーでは、曲がり具合には意味が無くなるため、違った尺度で図形や空間を測る必要があります。微分幾何とトポロジーでは異なる見方をしますが、たとえばトポロジーの問題に微分幾何の手法が使われたポアンカレ予想の解決のように、両者は密接に関係します。私たちのグループでは、これら両分野の研究者が、互いに協力して研究に取り組んでいます。
数理解析グループ
スタッフ:
川下 美潮(教授)、内藤 雄基(教授)、滝本 和広(准教授)、平田 賢太郎(准教授)
微分積分を通じて数学の世界を体感しよう
高校の数学で微分・積分を学習します。大学で学ぶ解析学は微分積分学を発展させたものです。ところで、なぜ微分・積分が必要なのでしょうか?
世の中には常にさまざまな現象が起こっています。リンゴは落ちるのになぜ太陽や月は落ちてこないのか? 雪の結晶はなぜあのような美しい形をしているのか?……このような現象を数学的に表す際に、微分や積分が登場します。ニュートンの運動方程式はその例です。そして、現象を解明しようとして先人たちが努力をした結果、多くの新しい理論を構築し、それと共に解析学は発展していったわけです。解析学の発展には日本人の数学者も大いに貢献しており、現在でも日本の解析学の研究は世界的に見てトップレベルにあると言えます。
数理解析グループでは、自然科学に現れる諸現象を、力学系や微分方程式等によって記述し、数学解析の基礎の上に打ち立てられた実解析、複素解析および関数解析等の最先端の手法を駆使して研究し、そのメカニズムを解明しています。
力学系の分野では、時間発展を記述する数学的モデルについて、その一般的な軌道の構造や漸近挙動をさまざまな視点から研究しています。微分方程式分野では、物理現象を記述する微分方程式の解の構造や挙動に関する研究を行っており、特に非線形現象の解明や弾性体に関する散乱理論などが主に扱われています。漸近解析の分野では、リサージェンス理論を用いたストークス現象の解析や、WKB法を用いた特異摂動問題に関する研究が行われています。複素解析学においては、複素平面やリーマン面上の正則関数・有理型関数を対象とする伝統的な関数論から、超幾何関数などを対象とする特殊函数論にいたるまで幅広い研究が行われています。ポテンシャル論分野においては、領域の形状や空間構造に依存する調和関数・温度関数・ソボレフ関数の定性的性質、境界挙動、さまざまな関数空間におけるポテンシャル評価の研究を行っています。さらに、これらを活かした非線形問題の研究にも取り組んでいます。
確率統計グループ
スタッフ:
井上 昭彦(教授)、若木 宏文(教授)、伊森 晋平(准教授)、小田 凌也(助教)
数学を駆使して不確実性に対処する
確率論は不確定な現象に関係する事柄を研究する学問で、物理学、工学、生物学、経済学など多くの分野に応用され、数学の他の分野とも深く関係しています。本研究グループでは、特に、金融と保険の分野への応用に力を入れています。この分野では、リスクを分析し、いかに対処するかが重要な課題で、そこでは確率論や統計学が頻繁に用いられます。たとえば、日本の誇る伊藤清先生の創始された確率解析という数学の理論は、現代の金融では必須の道具になっています。一方、歴史の長い保険数理分野では、近年、ファイナンス理論的な手法で高度な数学を用いた研究が世界的に盛んになっています。金融と保険の数理は、現実の世界を対象にしながら高度な数学を適用できる点で大変面白く、また解決されなければならない多くの問題が残されているという点でとてもやりがいのある分野だといえます。
私たちは日常生活においてさまざまな不確実性に直面しています。一方、世の中には実験や調査に基づく数字、「データ」があふれています。テレビ・新聞・雑誌等あらゆる所で、データの解釈・データを用いた主張が行われていますが、これらはどのような分析手法と理論的根拠に基づいて行われているのでしょうか?より一般的に、「不確実な状況のもとで、いかに決定したらよいのだろうか?また、特定の観測データから新しい現象を発見したり、新しい理論を主張するためには、それをどのように一般化すればよいのだろうか?」という問題があります。不確実性を数量化することによって、このような問題に答える方法を、科学的、技術的さらに芸術的に与える方法が20世紀以降に急展開した統計学です。数理統計学の目的は、データを収集・分析して、現状を認識して決定を下すまでの科学的・客観的方法を研究すること。現代の数理統計学は、確率論を初めとしたさまざまな分野の数学をふんだんに用いています。理学・工学・医学・薬学・生物学・農学・経済学・心理学等あらゆる分野で応用され、理論的裏付けを与える数理統計学の重要性は一層増してきています。
非線形生命数理学グループ
スタッフ:
大西 勇(准教授)
現象を背後で支える非線形性の探究
非線形数理学は、古典的な解析学の主要結果や重要な理論を包括し一般化すると共に、数理科学の諸分野で提起される問題を扱う上で有効な手法を与える形で発展してきた分野です。力学系理論や、線形および非線形作用素の理論、発展方程式論等を駆使して、工学・物理学・化学・生物学・幾何学などに現れる非線形問題あるいは自然現象(波動現象、拡散現象、振動現象、パターン形成現象等)を記述する数理モデルを数学的に理解する方法の研究に取り組んでいます。発展方程式論は、我が国の先達の貢献も著しい分野の一つで、やりがいのある分野です。大西の研究室では、それについての基本を学び、非線形偏微分方程式系の解の存在や一意性、適切性についての理論構築を学びます。
計算生命数理学グループ
スタッフ:
斉藤 稔(准教授)
数理モデル解析や大規模数値計算から生命現象に迫る
生命現象に現れるさまざまなダイナミクスは複雑ですが、単なるランダムな動きとも異なり、何か「生命らしい」独特な法則性・秩序があるように思えます。ではその「生命らしさ」とはなんでしょうか。言い換えると、生きているシステムならではの数理的構造、非生命では起きえない現象、生命と非生命を分ける特徴、といったものは存在するのでしょうか。本研究グループでは、数理モデリングや大規模数値計算、機械学習解析を駆使し、これらの謎に迫ります。特に、細胞や組織の運動、分子集団の共同現象、進化ダイナミクスなどを対象に、生物物理・数理生物学などの観点から理論的な研究を行います。
生命流体数理学グループ
スタッフ:
飯間 信(教授)
生命を取り巻く流体環境に内在する数理構造の解明と活用
流体運動は生物内外の環境や生命活動を構成する重要な要素の一つで、例えば飛翔や遊泳、あるいは血流や栄養物の輸送と関係しています。本研究グループでは、理論解析、数値計算、実験、データ解析などの手法を必要に応じて組み合わせ、さまざまな生物の運動や生命現象の秘密を、流体力学あるいは非線形力学の観点から解明することを目標としています。また逆に生物が持つ素晴らしい機能を抽出してその数理科学的な意味付けを与えることも目標の一つです。
データ駆動生物学グループ
スタッフ:
生命データに潜在する支配方程式の解読
生物学は今まさにデータと数理との融合を必要としています。近年の計測技術の発展により、動的な生命の営みを目の当たりにすることになりましたが、あまりの複雑さ故、数理モデリングを行うことが困難なことが少なくありませんでした。本研究グループでは、数理モデリングと機械学習を融合することで、複雑なデータの背後に潜む規則性やメカニズムを抽出し、生命現象を司る支配方程式をデータ駆動的に解読する研究を展開しています。具体的な研究テーマは、脳・行動・臓器連関・発生・免疫・ゲノミクスなどです。また、数理モデリングおよび機械学習の両方を使いこなすことができる人材の育成に力を入れています。
現象数理学グループ
スタッフ:
粟津 暁紀(准教授)、藤井 雅史(助教)
数理とデータに基づく自然・生命・社会科学
「現象」を理解するプロセスの基本は、仮説に対する適切な実験・観察によるデータの収集、データ解析による仮説の検証、客観的な理論的考察・モデル化による結果のメカニズム解明と新たな仮説の創造、の繰り返しです。データ解析および理論的考察・モデル化の段階では、近年急速に進歩しているさまざまな理論物理学および情報科学の知見が駆使されていますが、これらはさまざまな数学を記述土台としています。本研究グループでは数学を記述土台とする上記諸科学のみならず、実験・観察も含めた数理的思考を基盤に、さまざまな自然現象、最近では特にDNA・タンパク質等の生体分子から細胞・個体の社会に至る、さまざまなスケールの生命現象を支配する機序を詳らかにしています。またそのような思考ができる人材の育成に取り組んでいます。
複雑系生命数理学グループ
スタッフ:
藤本 仰一(教授)
生命の複雑な発生・進化・共存の理を探る
数理モデリングと実験データ数理解析を連携して、生命や社会現象を駆動する数理を探究します。主な対象は、細胞-多細胞-器官-個体-社会の多階層にわたる動植物・微生物の動的なふるまい(形づくり、動き、遺伝子発現)とその多様性です。数学・生物・物理・化学を駆使して、現象の背後で働く階層間の相互作用や遺伝子のネットワーク等を介した複雑な因果を明らかにします。複雑なシステムを理解し予測する科学を発展させます。
広島大学大学院先進理工系科学研究科数学プログラム