主な研究内容 | ||
教授 | 井上昭彦 川下美潮 木村俊一 古宇田悠哉 小林 亮 坂元国望 島田伊知朗 内藤 雄基 藤森 祥一 松本 眞 若木宏文 |
記憶を持つ確率過程,数理ファイナンス,時系列解析 微分方程式論,散乱理論 代数多様体のChow群の研究,モチーフ理論 トポロジー,特に低次元多様体、結び目、写像類群の研究 モデリングとシミュレーションによる生命科学と物質科学の研究 反応拡散系,力学系,非線形解析 代数多様体のトポロジー,K3曲面,格子理論 非線形解析,微分方程式 微分幾何学,特に曲面論 乱数,準乱数,応用代数,数論的基本群 高次元データ解析,漸近展開,経時データ解析 |
准教授 | 粟津暁紀 岩田耕一郎 大西 勇 高橋宣能 滝本和広 冨樫祐一 平田賢太郎 |
大自由度非線形非平衡動力学系の数理 数理物理学における確率論的手法 発展方程式論、および、それをベースとする非線形偏微分方程式論 開代数多様体,数え上げ幾何,モチビックゼータ 非線型楕円型・放物型偏微分方程式論 計算生物学,生体内の分子動態や情報処理機構 ポテンシャル論,半線形楕円型方程式 |
講師 | 奥田隆幸 神本晋吾 |
不連続群,冪零軌道,コンパクト対称空間上の代数的組合せ論 漸近解析,WKB解析,代数解析 |
助教 | 飯島 優 久保 亮 鈴木航介 中川勝國 野崎雄太 藤井雅史 |
基本群への外ガロア表現,普遍外モノドロミー表現 微分幾何学,特に対称空間内の部分多様体論 準乱数,準モンテカルロ法,数値積分 力学系,エルゴード理論 低次元トポロジー,特に3次元多様体や写像類群 生命現象の数理モデルと統計解析,システム生物学 |
私達が興味をもって取り組んでいる対象は代数幾何学・数論・群論・離散数学です.
代数幾何学は代数的に得られる図形の性質を調べる研究分野です.代数的に得られる図形とは,例えば,方程式 xn + yn =1 を満たす点 (x, y) の集合という意味です.この場合は代数曲線と呼ばれますが,更に高い次元の空間の中ではいくつかの多変数多項式の共通零点からなる代数多様体が研究対象となります.20世紀になり群を初めとする代数学の基本概念が整備されるにつれて,代数幾何学は急速に発展しました.代数的に得られる図形は自然界にある図形の中でも基本的なものなので,数学の他分野ばかりでなく物理学や情報理論などとのつながりも深く,応用の広い分野です.
数論は数学の中で永い研究の歴史があり,数多くの著名な数学者の寄与がある分野です. 彼らを強くひきつけた魅力的な超難問(フェルマーの予想,リーマンの予想,レオポルドの予想など)があり,これらを解く努力のなかでさらに新しい問題が生まれてくるのが数論の魅力です.17世紀以来の難問だったフェルマー予想の解決(ワイルズ,1994年)においては,保型形式の数論や数論幾何学といった現代的理論が縦横に用いられました.問題自身は簡単に述べることができても,その背後には,永年にわたって積みあげられた現代数学の最新の理論により,ようやく解明することが可能になった,深遠な世界が横たわっていたのです.
群は数の演算規則のなかの加法や乗法のみたす性質を高度に抽象化して得られるものです.それは自然界に現れる結晶構造の対称性にも由来しています.5次以上の代数方程式の解の公式が一般には作れないことの証明にある群の構造が役立ったことを1つの契機として,群論は豊かな世界をもつ研究分野に成長してきました.群は現代数学のいろいろな分野と関わりをもち,さらにその普遍性ゆえに,物理学・生物学のような他の諸科学においても重要な役割を担っています.
また,かつては純粋理論と見られがちだった代数学ですが,コンピュータの発達に伴い応用上も不可欠なものとなっています.コンピュータの動作原理は,有限集合上で代数演算を繰り返すことです.このため,データの暗号化,符号化,乱数発生など,多くの分野で高度な代数学が使われています.こういった有限集合の代数学,グラフ理論などの離散数学も,我々の主要な研究テーマの一つです.たとえば,当研究グループのメンバーにより開発されたメルセンヌツイスタ擬似乱数生成法は現在世界標準となっており,計算機の世界では非常に重要な道具となっています.
幾何学は,数学の中でも非常に古い歴史をもち,二千年以上も前から,多くの深い研究がなされてきました.ユークリッドの幾何学原本に集約されるギリシャの幾何は,その後の数学の発展の大きな原動力でありましたし,デカルトによる座標系の導入は,幾何と代数の接点をもたらし,ニュートンおよびライプニッツによる微分積分学の創設以後,解析学を用いて曲線・曲面等の研究がなされるようになりました.現代幾何学は,多様体という幾何学的対象を土台にして構築されております.多様体は,相対性理論において我々の宇宙を記述するモデルとして用いられており,現代物理学と密接な関係をもっているばかりでなく,代数幾何やトポロジー,解析学を初め,数学の多くの分野とも有機的に結びついております.私たちのグループでは,多様体を土台にこのようなさまざまな分野との関連の上に,リーマン幾何,部分多様体,極小曲面,半単純リー群や対称空間の微分幾何学的研究等を行っております.
かつて人々は,自分の目や手を用いて,自然界における数学的現象を分析し,幾何学を構築してきました.しかし,幾何学がこれほどまでに発展を遂げた今,それまで視覚や手計算に委ねてきたこれまでの方法は限界にきています.近年コンピュータによる図形,数式処理が可能になりました.私たちのグループでは研究にこのような新しい手段を積極的に活用しています.
位相数学(トポロジー)は,図形やそれを一般化して得られた概念である多様体や,空間の性質を調べる数学です.歴史的には,オイラーが“ケーニヒスベルクの橋”の問題で,図形の“つながり具合”を数値化して解いたことに始まります.以後,図形や多様体などの“つながり具合”が,原始関数の表現や微分方程式の解の性質などを調べる上で本質的な役割を演じることがわかるにつれ,つながり具合によって,対象を分類していこうという立場があらわれてきました.このように数学では対象をいくつかの種類に分類することが有効であると考えられています.分類をするために位相数学では,対象を連続的に変形しても変らない性質や量を調べることが基本の一つとなっています.位相幾何学はこの方面の極端に発達した分野で種々の応用の可能性があります.多様体は現象が一般性や有界性を持つ場合に最も基本的な概念で,その研究は幾何学を中心に代数学や解析学を含んだ数学の基礎の一つとなることが期待されています.最近は次元が時空間に近い2・3・4次元多様体が,詳しく研究されるようになってきました.結び目やグラフなどはっきりと目に見える対象の深い研究や葉層構造や力学系など微分方程式の解の“性格”を調べる研究と直接つながったものもあります.
これらの研究や教育において,研究対象や結果をグラフィック表示し動的に理解することが可能になってきており,これらの手法を開拓し有効に利用していくことも重要です.
関数論は,複素数を変数とする関数を研究する分野で,いわゆる解析学の一部分を形成しています.それは,長い歴史の流れの中で,解析学の内部ではもちろんのこと代数学・幾何学など数学内の他の分野にも,とくに基本的な問題を提供するという形で多くの貢献を成し遂げてきました.
関数論は,その名から想像されるような,関数の一般的な理論だけを扱う分野ではありません.いわゆる解析関数や調和関数などの特別な関数の一層深く美しい性質を研究する分野です.解析性や調和性などの説明をいまここで述べる余裕のないのが残念ですが,高等学校でふつうに学ぶ関数――それはy = f(x) という形のものでしたが――において,従属変数 y が“ある美しい仕方で”独立変数 x に依存するものと想像してください.これらの関数の深く内在的な性質は,研究に値することがわかります.また一見したところの特殊性に反して他分野への応用にも十分耐えてきました.これらの関数が多くの側面をもつことがその重要性をよく物語っています.
さらに,現代では,関数の定義域や値域も,数の世界から曲面やもっと一般的抽象的な空間へと拡張されています.また,微分方程式で定義される関数の研究も近年大変進展し,数学,物理等に広く応用されています.これらの新しい研究方向も,そしてまた古典的な香り高い関数論も,それぞれに皆さんを魅了するでありましょう.
歴史的にみて,数学の最も大切な役割のひとつは「自然現象の解析」であるといえると思います.自然界における物理的現象や幾何学的現象の大部分は不連続に変化します.例えば,気象現象を考えてみて下さい.このことは,その現象を数学的に記述する(偏)微分方程式の非線形性として反映されます.
2次方程式を解く際に,実数から複素数が導入されたように,微分方程式論においても,皆さんの知っている関数や積分(リーマン積分)を一般化した超関数やルベーグ積分の理論を使うことによって,1960年代から1980年代にかけて,線形偏微分方程式の理論は飛躍的に発展しました.この分野において,日本の多くの数学者が本質的な研究を行ない,現在わが国の偏微分方程式論は,世界的に極めて高いレベルにあります.
線形の理論が十分に整備された現在,(偏)微分方程式論は,本来の目的ともいうべき,自然現象の解析に向かう時期だといえると思います.我々は,不思議な自然現象を数学的に解明したい,あるいは,その現象の背後にある数学的に美しい理論を発見してみたい,そのような気持ちを原動力に研究を行なっています.
微分方程式の研究には解析学の様々な分野の知識を必要としますので,ある意味で非常に難しい面もありますが,それだけやりがいのある分野だと思います.
高校の数学では,幾何や微積は得意だけれども確率は何となく苦手,という人が多いようです.例えば,確率の問題で答えを間違えたけれどもどこで間違えたのかがよく分からない,という経験をした人は多いのではないでしょうか.実際,確率の問題は,多くの場合サイコロのような誰にでも理解できる日常の言葉で述べられているにも関わらず,そこで述べられたことを正しく式で表現しようとすると,微妙な難しさがあることに気づくことがあります.
それでも,我々は,この現実の世界では,可能性がいくつかある不確実な状況化で判断し行動していることが多いものです.例えば「挑戦」という言葉は,それが失敗と成功の両方の可能性を踏まえての決断であることを意味します.必ず成功あるいは失敗することが分かっていることを行うのは挑戦とは言わないわけですね.
不確実さを我々の世界の本質的な要素であると考え,その不確実さをむしろ積極的に数学の力で分析し法則性をとらえ,場合によっては合理的な意思決定の助けにしようとすると,そこには非常に魅力的な世界が開けてきます.それが,現代の確率論の世界です.我々の世界は様々な種類の不確実さに満ちているため,確率論の応用される分野も,統計学,物理学,工学,生物学,経済学など多岐に渡っています.さらには,一見ランダムさとは無関係なものと確率論が結びつくこともしばしばあります.
広島大の数学科では,中でも,金融と保険の分野への確率論の応用の研究に力をいれています.金融と保険の数理は,現実の世界を対象にしながら高度な数学を適用できるという点で大変おもしろく,また解決されなければならない多くの問題が残されているという点でとてもやりがいのある分野だといえます.
私たちは,生活している物理的,社会的環境の中で,様々な不確実性に直面しています.また,一方,世の中には様々な実験や観測や調査に基づく数字があふれています.これらの数字は「データ」あるいは「統計」と呼ばれます.テレビ・新聞・雑誌あるいは種々の報告書・専門書等,あらゆる所で,データの解釈・データによる説明・データを用いた主張が行われています.これらの解釈・説明・主張は,どの様な分析手法と理論的根拠に基づいて行われているのでしょうか?
より一般的に,「私たちは不確実な状況のもとで,如何に決定を行ったらよいのだろうか? また,ある特定の観測データから,新しい現象を発見したり,新しい理論を主張したりするためには,どのようにそれを一般化すればよいのだろうか?」という問題があります.不確実性を数量化することによってこのような問題に答える方法を,科学的に,技術的に,さらに芸術的に与えるのが20世紀以降に急展開した統計学です.
数理統計学の目的は,データを集めることから始まって,それを分析し現状を認識し決定を下すまでの,科学的・客観的方法を研究することです.特に現代の数理統計学は,確率論をはじめ,様々な分野の数学をふんだんに用います.同時に,数理統計学は,理学・工学・医学・薬学・生物学・農学・経済学・心理学等あらゆる分野で応用されています.さらに,最近のコンピューターの発達に伴って,多種多様な統計計算が可能となり,その理論的裏付けを与える数理統計学の重要性は一層増してきています.
非線形数理学は,一方で解析学の主要な結果や重要な理論を包括し一般化する形で,他方では数理科学の諸分野で提起された具体的な問題を組織的かつ体系的に取り扱うという形で発展してきました.20世紀初頭より多くの優れた数学者によって多くの重要な結果が得られ,解析学の分野のみならず自然科学の様々な分野に応用されてきました.これらの理論の特徴は,その一般性と抽象化による理論的な美しさ,そして広汎な応用可能性にあります.
私達は主に無限次元空間の構造並びに作用素の研究を行なって非線形関数解析への貢献を目指すと共に,発展方程式論と呼ばれる抽象微分方程式の理論を進展させて偏微分方程式を含む様々な問題に応用することに重点を置き,この分野では常に基本的な貢献をしてきました.
発展方程式論をベースとした非線形放物型偏微分方程式論は、抽象的な現代解析学の到達した一つの輝かしい功績で、日本人研究者の先達が、質量ともに、多大な貢献をしております。大西の研究室では、特に、その一端を学び、自分でもさらなる貢献ができることを目指します。
どの研究分野においても強固な基礎理論が必要です.非線形数理学で開発された理論や手法はそれ自身興味ある研究対象であるのみならず,数理科学において一般的かつ強力な方法を与えるものであり,今後も様々な問題が非線形数理の立場から考察され,重要な成果が得られるものと思われます.多くの若い人達がこの分野に興味を持たれ,活躍されることを期待しています.
自然科学,工学の分野において現れる様々な現象を記述する数理モデルがあります.例えば,高層建築物が地震の振動に耐えるかどうか,航空機,自動車,船舶が空気や水からどのような力を受けるか,電流の変化により電場磁場はどのように変わるか,これらはすべて数理モデルで記述されます.そのような数理モデルを現実に解く必要がありますが,現代に生きる我々はその手段として計算機(コンピュータ)を使います.計算機は基本的には加減乗除しかできませんので,数理モデルを計算機用に変換する必要がありますし,得られた解がモデルの元の解に近いことを示す必要があります.これらの解析に現代の数学が使われます.計算機で得られた解は大量の情報を含んでいますので,その理解のために画像処理(コンピュータ・グラフィクス)を使います.
自然現象の中にはその記述の仕方がわからないものも数多くあります.それらに対しても,モデル化,計算機シミュレーションそして数学による解析を用いて解くことを目指しています.
上に述べた二つのキーワード「数学」と「計算機」が出来るということは非常に素晴らしいことなのです.1991年の日本国際賞の受賞者であるリオンス博士はこの二つを「現代の万能ツール」と呼んでいます.この二つを駆使すれば世の中の複雑な現象が解明できるということです.
現象数理学ではこのような立場から教育,研究に取り組んでいます.
複雑系という言葉が自然科学で盛んに用いられ始めたのは15年くらい前からであり,現在でもその定義は人によって多少の違いがあります.私達の研究室では「生命に直接関与した非平衡系」と捉えています.
非平衡系の例として地球大気圏を考えてみましよう.地球には太陽から絶えずエネルギーが供給され,それが地面や海洋を暖め,大気の運動を引き起こし,大気上層で主として熱輻射の形で宇宙空間に熱が捨てられています.このようにエネルギーの注入とそれの消費,散逸がバランスして定常的にダイナミックな構造を生成している系を非平衡系,あるいは,非平衡開放系といいます.
上の説明から生命は非平衡開放系の典型例であることが容易に理解できると思います.実際,我々生物は外部から物質やエネルギーを取り込み,消費し,排泄することで自身の構造を保っているわけですから.さらに,生命のからんだ非平衡系の特徴は単なる動的秩序のみならず,機能をもつ,あるいは,情報の生成・伝達を行なう能動的秩序が存在することです.
非平衡系の科学は発展途上の学問分野です.この分野に飛び込むにあたって,数学以外に物理学や生物学も知らなければならないなどと恐れをなすことはありません.必要なことは,必要なときに学べば良いのです.モデルづくり,シミュレーション,数理としての方法論の開発などいくつもの重要な課題があります.若い学生諸君がこの新しい学問に興味をもち,発展に寄与してくれることを期待しています.