●●● 談話会 ●●●

2024年度

第1回

日時: 5月21日(火)13:00−14:00
場所: 理学部E211
講師: 渡部拓也 氏 (立命館大学)
題目: 2 準位擬交差における量子ダイナミクスの準古典解析
要旨: エネルギー準位の擬交差における量子ダイナミクスの解析には,状態遷移の断熱近似が有効であると考えられている.本研究では,その数学のモデルとして,2 つの小さなパラメータを含む 1 階の常微分方程式系を考察し,2 準位間の遷移確率の漸近挙動を調べる.一方のパラメータは断熱近似として機能し,WKB 解析をはじめとする準古典解析が適用できるが,擬交差間のギャップに相当するもう一方のパラメータは相反する役割を果たし,パラメータの比に依存して,WKB 解析が適用できないケースが生じる.本講演では,エネルギー準位の接触交差によって生成される複数の擬交差が存在する場合,2 つのパラメータが遷移確率の漸近挙動にどのように影響をもたらすのかについて紹介する.本研究は,樋口健太氏(愛媛大学)との共同研究である.

第2回

日時: 10月15日(火)13:00−14:00
場所: 理学部E209
講師: 末續鴻輝 氏 (早稲田大学)
題目: Sprague-Grundy 数の理論とその拡張
要旨: 組合せゲーム理論では偶然や運・伏せられた情報がないゲームの数学的構造を探る理論である.その中で,正規形の不偏ゲームとは,2 人で行うゲームであって,お互いのプレイヤーができる着手に違いがなく,自分の手番で着手できなくなったプレイヤーが負けとなるゲームの総称である.
 Sprague-Grundy 数(グランディ数)の理論は不偏ゲームを解析するために用いられる.不偏ゲームの任意の局面には 1 つのグランディ数が割り当てられ,グランディ数が正の場合,その局面は先手のプレイヤーに必勝戦略があり,グランディ数が 0 の場合,その局面は後手のプレイヤーに必勝戦略がある.また,グランディ数は直和となっている局面を調べる際に非常に有用である.すなわち,もしある局面が,複数の構成成分に分けられていて,プレイヤーはいずれかの構成成分を選んで一手着手し相手の手番になるような局面であった場合,もとの局面はそれら構成成分の直和であるという言い方をするのであるが,実は全体の局面のグランディ数は,各構成成分の排他的論理和となっている.
 このようなグランディ数の理論は組合せゲーム理論の中では比較的知られているが,実はグランディ数には様々な拡張が考えられており,元のグランディ数では対象外であった,「局面が循環して終わらないことがあるゲーム」や「特定の条件で 2 手連打をすることができるゲーム」に対してもグランディ数を定義する方法が知られている.
 本講演では基礎となるグランディ数の理論およびこのような拡張されたグランディ数の理論について,特に 2021 年に確立した新しい理論であるアフィン不偏ゲームの理論に注目しながら紹介する.

第3回

日時: 10月22日(火)13:00−14:00
場所: 先端研402N
講師: 小林俊行 氏 (東京大学)
題目: 群作用をもつ多様体上の大域解析における基本問題
要旨: 幾何において対称性があると,その対称性は関数空間にも現れます.この対称性は表現論の言葉で定式化され,たとえば,古典的なフーリエ級数展開や球面調和関数展開は,このような群論的な視点から解釈することも可能です.一方,多様体がコンパクトではなく,対称性が可換性を持たない場合は,表現としては無限次元が必要になります.
 この談話会では,SL(n,) のような非可換性が高い群 G の対称性をもつ非コンパクトな多様体 X 上の大域解析に関して,いくつかの基本的な問題の現状と,これらの問題が数学の種々の分野に現れる概念とどのようにつながっているかについてお話をしたいと思います.
 問題 A:群 G は,空間 X 上の関数空間を「十分に」制御するか?
 問題 B:L2(X) の「スペクトル」について何を言うことができるか?

第4回

日時: 1月14日(火)14:35−15:35
場所: 理学部E208
講師: 廣瀬慧 氏 (九州大学)
題目: 計算機代数による因子分析の最尤推定
要旨: 因子分析では,観測変数が多変量正規分布に従うという仮定のもと,最尤法でパラメータを推定する.最尤推定値は,複雑な多変数代数方程式を解くことで求められるが,この方程式の厳密解を求めることは困難であるため,連続最適化問題によって近似解を得るのが一般的である.
 しかしながら,対数尤度関数の非凹性のため,連続最適化問題によって得られた値は必ずしも最適解ではない.実際,最尤推定値がアルゴリズムや初期値に大きく依存することがある.この問題は特に,独自因子の分散が 0 または負となる不適解問題が生じた場合に顕著に現れる.そこで,本研究では,計算機代数(数式処理)を用いて多変数代数方程式の厳密解を計算する.具体的には、因子分析モデルの最尤推定値の候補をグレブナー基底などの手法で算出し,複数の解の候補から尤度関数を最大化する解を選択することで最尤推定値を得る.このアプローチにより,初期値や推定アルゴリズムに依存しない最適解を得ることが可能となる.さらに,最尤推定値が存在しないといった性質も明らかにできる.モンテカルロシミュレーションを通じて,最尤推定値の特性を網羅的に解析し,不適解が生じる原因に関する考察を行う.

2023年度以前


談話会委員 木村, 石原, 藤井

大学院先進理工系科学研究科数学プログラム