2009年度
第1回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 4月28日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 井上 昭彦氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : ファイナンスと保険の数理
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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本講演のタイトルは,中野 張(ゆみはる)氏(東工大),福田 敬
氏(日本格付研究所)および講演者の3人による岩波書店から
出版予定の本のタイトルを(事前の販売促進を兼ねて)そのまま
借用しました.講演の前半では,この本の構成を材料にしながら
「ファイナンスと保険の数理」の理論の枠組み(の一端)を紹介します.
またこの分野の今後の問題点についても触れたいと思います.
続いて講演の後半では,動的な設定下での保険料計算原理に
関する我々の研究を紹介したいと思います.
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第2回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 5月12日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 佐々木 良勝氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : パンルヴェ超越函数の値分布論
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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有理型函数の値分布論は
複素函数の形をとらえる手段の一つです.
本講演ではまず古典的な値分布論について述べた上で,
パンルヴェ超越函数と呼ばれる特殊函数についての
値分布論の結果を紹介します.
第3回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 5月26日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 宮岡 礼子氏 (東北大学大学院理学研究科)
- 題目 : 超曲面論とスペシャル幾何
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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空間を埋め尽くす超曲面の平行族を
用いて,空間に特殊計量を作ったり,ラグランジアン
部分多様体を作ったりすることができる.
特に等径超曲面という美しい対象は,ここで著しい役割を
演じる.等径超曲面の紹介とその応用について述べる.
第4回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 6月9日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 加藤 賢悟氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : スタイン現象と分布予測の問題
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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多変量正規分布の平均ベクトルの推定を考えるとき,通常は標本の算術平均を推
定量として用いる.しかし,ベクトルの次元が 3 以上であるとき,算術平均より
理論上優れた推定量が存在する.この一見不思議な現象はスタイン現象と呼ば
れ,多くの研究者の関心を集めてきた.類似の現象は分布予測の問題においても
現れる.本講演では統計的決定理論の枠組みを紹介したあと,多変量正規分布の
分布予測に関する講演者の研究を紹介する.
第5回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 6月23日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 石井 亮氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : ダイマー模型と特異点
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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ダイマー模型とは,2 次元トーラスを多角形に分割する 2 部グラフ
(頂点が白黒 2 色に塗り分けられたグラフ)のこととします.
それは,一方では関係式つき箙を定め,他方では格子多角形を定めます.
この講演では,勝手な格子多角形の定める 3 次元アフィントーリック
多様体の(可換/非可換)特異点解消を,
関係式つき箙の表現のモジュライ空間を用いて構成する話をしたい
と思います.
第6回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 7月7日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 小池 茂昭氏 (埼玉大学大学院理工学研究科)
- 題目 : 完全非線形楕円型方程式の粘性解の弱 Harnack 不等式について
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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弱 Harnack 不等式は,楕円型方程式の解の Hölder 連続性を導くだけでなく,
解の様々な性質を示すための重要な道具です.
本講演では,完全非線形 2 階楕円型方程式の自然な弱解である Lp 粘性解
に対して弱 Harnack 不等式が成り立つ十分条件に関する
最近の A. Święch との共同研究を紹介します.
次の完全非線形 2 階一様楕円型方程式の(非負)Lp 粘性優解の
弱 Harnack 不等式を得ることを目標とします.
P+(D2u) +μ(x)|Du|m= -f(x) in Ω,
ただし, Snは n 次の実対称行列,
楕円型定数 0<λ≦Λに対し,Pucci 作用素 P+ を次で定義します.
P+(X)= max{ -trace(AX) | λI ≦ A ≦ ΛI } (X∈Sn)
また,Ω⊂Rn は(有界)開集合で,μ∈Lq(Ω), f∈Lp(Ω) は非負関数とし,m≧1 とします.ただし, q≧n, p>p0 (p0∈[n/2,n)) とします.
弱 Harnack 不等式とは,非負関数 u が上式の Lp 粘性優解ならば次を満たすことです.
(∫Q1urdx )1/r≦ C(infQ1u + || f ||Lp(Q4))
ただし,C,r>0 は u に依存しない定数で(μには依存します),Qr は
一辺が r の原点中心の n 次元立方体です.また,Q4⊂Ω としておきます.
証明の第一段階で,Aleksandrov-Bakelman-Pucci の最大値原理が必要です.
m>1 の時は,一般にその最大値原理は成り立たないので,条件がつきます.
詳しくは講演で述べます.
第7回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 8月4日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 柴田 勝征氏 (福岡大学理学部)
- 題目 : 世界的な数学者たちも陥った幾何学的直感の落とし穴 -- 15 歳を対象とした国際学力比較テストの”街灯”の問題
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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現在,日本の教育界・文科省・教育ジャーナリズム
を席巻している PISA (Program for International Student Assessment) の
基本文献に「数学の問題はこのように作るものだ」という模範例として
解説されている「街灯」問題は,「三角形をした公園に1本の街灯を立てると
したら,どこに立てるといちばん良いでしょう?」となっている.
(1)模範解答は「外心」となっていて,理由は全く書かれていない
のだが,世界的な数名の日本人の数学者によれば,「もっとも暗い地点
の明るさを最大にしようとすると,自然に外接円が得られる」という.
実は,これは完全な幾何学的錯覚で,鋭角三角形でのみ正しく,しかも
その証明は「自然には」得られない.
(2)本講演者は,三角形の各地点での明るさを三角形全体で積分して,
それを光源の座標の関数として偏微分して極大点を求めると,非常にきれ
いな対称中心点を与えることを発見して,その点に「灯心」という名前を
付けた.灯心の位置は,(鋭角三角形・鈍角三角形にかかわりなく)常に
内心と重心の中間あたりにある.
(3)さらに,これを街灯の高さを考慮して,公園の地表面の明るさの
総和積分を最大にする点を求めると,解は当然,高さに依存するが,高さ
を0(ゼロ)に近づけてゆくと内心に限りなく近づき,高さを限りなく
高くしてゆくと重心に限りなく近づいてゆくことを証明した.
(4)限りある地球の資源を有効に活用するための数学として,本講演者が
「街灯」問題を解析するために開発した手法は今後ますます重要になると
思われる.例えば,宇宙ステーションの中では,水・食料・エネルギーなど
をギリギリ目一杯有効に使う必要があるから,いろいろな意味で「もっとも
経済効率の良い点」を計算する数学が必要になってくるだろう.
第8回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 10月20日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 伊藤 賢太郎氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : 振動子系にみられるパターンの移り変わりの数理
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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パターンを自発的に移り変わる現象(真生粘菌等)とそれを生み出
す数理的な機構について紹介していく.
後半では,反発的な相互作用をもつ三振動子系の解の分岐構造を解
析することにより,
アトラクター同士が融合していく過程を通して,振動パターンの自
発的遷移現象が現れることについて報告する.
第9回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 10月23日(金),14:35 -- 16:05 (通常と曜日・時間が異なります)
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : Joseph Mazur 氏 (Marlboro College)
- 題目 : Influence, Persuasion and Proof in Mathematics
- 要旨:
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This is a talk about the mental undertow of influence and the pressures of authority. What makes us feel that something is correct or true? What makes us feel that something is false? What makes a proof a proof?
The "law of large numbers" is a subtle law, responsible for the financial ruin of so many who misinterpret and misjudge it. It is the subject of Professor Mazur's forthcoming book about the history, mathematics and psychology behind the illusion of luck in gambling, What’s Luck Got to Do with It? It bridges those elusive lines that separate mathematics from the physical world modeling luck and randomness to reveal nothing less than the fundamental nature of reality.
第10回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 11月10日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 長井 英生氏 (大阪大学大学院基礎工学研究科)
- 題目 : Large time asymptotics of the probability minimizing down-side risk
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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各時刻 T において投資家の持つ資産が与えられた目標成長率を下回る確率を
最小化する問題を考える.時刻 T を大きくした時の,この最小値の漸近的挙動を考察する問題を,大偏差確率制御の問題ととらえる.そして,対応する Risk-sensitive control の双対問題とみなすことにより,求めようとする確率の漸近挙動を
明示的に表現する.また,その最適ポートフォリオを求める.
第11回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 11月17日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 石川 剛郎氏 (北海道大学大学院理学研究科)
- 題目 : 実代数幾何という考え方と最近の研究動向
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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集中講義で解説する Hilbert 第 16 問題,特にその前半部分は,
いわゆる「実代数幾何」という分野に属する.
この実代数幾何という分野が何を目指しているのか,
説明するのはなかなか難しい.
とはいえ,(多数とは言えないが)世界中の様々な研究者が
様々な動機から様々な題材について,
実代数幾何と呼ぶべき研究を現在活発に行っていることは確かである.
たとえば,同じ実代数幾何でも,Hilbert 第 16 問題の研究に代表される
「位相的実代数幾何」と呼ぶべき研究も多くあるが,Hilbert 第 17 問題の研究に代表される
「代数的実代数幾何」と呼ぶべき研究も多くあり,
また,それらの中間的研究で優れたものも多くある.
このような実代数幾何という分野の研究に関して,
共通するものの見方・考え方があるとすれば何か,
ということについて,なるべく具体的な例に即して述べてみたい.
また,最近の実代数幾何の世界的な研究動向も,
もちろん寡聞な講演者が把握している範囲に限定されるが,
紹介する予定である.
第12回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 12月1日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 平之内 俊郎氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : 最近の高次元類体論について
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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本講演では,古典的な類体論を復習したあと加藤-斎藤以降の
高次元類体論の発展について簡単に紹介します.特に 21 世紀に入っ
て G. Wiesend によりこの分野で大きな進展があったので,その考え方と
派生する問題について述べたいと思います.
第13回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 12月22日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 澁谷 一博氏 (広島大学大学院理学研究科)
- 題目 : 微分式系に現れる特異性
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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微分式系(多様体の接束の部分束)に対してその延長,派生系などが
定義されるがそこには多様体としての特異性,部分束としての特異性などが現れることがある.本講演ではそれらの特異性の幾何学的意味を具体例を通して説明する.
第14回 (印刷用はこちら)
- 日時 : 1月12日(火),13:00 -- 14:00
- 場所 : 大学院理学研究科 B707号室
- 講師 : 坂内 健一氏 (慶應義塾大学理工学部)
- 題目 : Kronecker テータ関数と虚 2 次体の p 進 Hecke L 関数
- Tea Time: 14:00 --
- 要旨:
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Eisenstein-Kronecker 数は,古典的な Bernoulli 数を
自然に拡張したもので,虚 2 次体の Hecke L 関数の特殊値と密接な
関係にある.小林真一氏との共同研究を通して,
この数の母関数が,Kronecker テータ関数と呼ばれる Poincare 束に
付随する 2 変数のテータ関数で与えられることを発見した.この事実を用いて,
素数 p が分解している虚 2 次体の p 進 Hecke L 関数の
新しい構成(小林真一氏との共同研究)や虚数乗法をもつ楕円曲線の
楕円ポリログの具体的記述(小林真一氏,辻雄氏との共同研究)
などが可能となった.この講演では,この研究の一連の流れや
今後の展望について解説する.
2008年度以前
Date: 2009.12.10
談話会委員 小林, 木幡, 高橋, 滝本
大学院理学研究科数学専攻