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複素射影空間の積分幾何学
田崎博之
筑波大学 数学系

1. 平面曲線のPoincaréの公式

平面の合同変換群を$G$で表す。 平面曲線$c_1, c_2$をとり、 それらの長さを $L(c_1), L(c_2)$で表す。 $g \in G$に対して交点数 $\char93 (c_1 \cap gc_2)$を対応させる関数は、 $G$の不変測度に関する可測関数になり、 その$G$上の積分は$4L(c_1)L(c_2)$に一致する。 この積分公式は19世紀末に発見され、 以後Blaschke, Santaló, Chernら多くの人々によって 種々の等質空間における積分公式に拡張されている。 このような形の積分公式は Poincaréの公式と呼ばれている。


2. Howardの定式化

1993年に発表された論文でHowardは一般のRiemann等質空間における Poincaréの公式を定式化した。 ユニモジュラーLie群$G$によるRiemann等質空間$G/K$の部分多様体$M, N$ $\dim M + \dim N \ge \dim(G/K)$を満たすとき、

\begin{displaymath}
\int_G \mbox{vol}(M \cap gN) d\mu_G(g)
= \int_{M\times N} \sigma_K(T_x^\perp M, T_y^\perp N) d\mu_{M\times N}(x, y)
\end{displaymath}

が成り立つ。 ここで、右辺の被積分関数 $\sigma_K(T_x^\perp M, T_y^\perp N)$$K$ $T_x^\perp M, T_y^\perp N$への作用に対して定まる$K$上の積分量である。 Howardの定式化以前に得られていた定曲率空間におけるPoincaréの公式は、 この被積分関数が定数になる特別な場合として扱える。 この場合、被積分関数が定数になるので、 積分公式の右辺は$M$$N$の体積の積 $\mbox{vol}(M)\mbox{vol}(N)$の 普遍定数倍になる。


3. 複素射影空間

複素射影空間の複素部分多様体に対するPoincaréの公式の右辺は、 二つの複素部分多様体の体積の積の普遍定数倍になることがSantalóによって 得られていたが、 Howardの定式化からみると積分公式の右辺の被積分関数が 複素部分多様体に対しては一定であるということになる。 複素射影空間内の一般の部分多様体に対するPoincaréの公式は、 実二次元部分多様体と実二余次元部分多様体に対して Kähler角度を使って定式化できた。 さらに一般の部分多様体に対する定式化を得るために Kähler角度の概念を一般化し、 それを使って一般の部分多様体に対するPoincaréの公式を 得ることができた。 この一般化されたKähler角度は複素ベクトル空間内の実部分ベクトル空間の ユニタリ群の作用に関する完全不変量になっている。





Tohru Okuzono
2001-10-31