放射線誘発性リスクの疫学的および医学的研究
(Radiation-induced Riks of Epidemiological and Medical Studies)
大竹 正徳 (川崎医療福祉大学)
電離放射線被曝によって誘発される生物学的効果の範囲は主として線量とその効果
の定量的関係によって決定される。ABCC・RERFの寿命調査集団の放射線被曝による有
意な
癌所見は先ず白血病、肺癌、乳癌、胃癌、消化器癌、呼吸器癌、結腸癌、直腸癌など
癌発
現率の
有意なリスクが認められ、発達中のヒトの脳への有害な影響についても疫学的に実験
的に
も実証されている。
放射線被曝による胎児の発生異常である脳障害は精神遅滞や小頭症などの有害な影響
を与える。胎児被爆者の重度精神遅滞の発生、知能指数(IQ)や学業成績に関する評価
から
排卵後(受胎後)8〜26週齢の被爆者に認められている。このような影響は特に感受
性の
高い排卵後8〜15週齢において、重度精神遅滞の頻度増加という形で現れる。しかし、
重
度精神遅滞の症例分布は低線量域(DS86子宮内吸収線量)における閾値(しきい値)の
存在
を示唆する。発達中のヒトの脳に対して出生前放射線被曝による障害がどのようなメ
カニ
ズムによって起こるかということについては、依然としてその実態は全く分かってい
ない。
主な研究は胎内(出生前)被爆者の脳障害に関する放射線リスクやしきい値の推定問題、
また原爆白内障の放射線感受性としきい値に関する研究、更には経時データに基づく
成長
曲線分析についての種々の研究、またヒトに与える放射線の後影響についての脳障害
やし
きい値の推定問題については放射線生物学的に極めて興味のある課題である。最近で
もま
だ放射線の影響について、疫学的にも実験的にも不明な点が多く存在しており、これ
らの
取
り組みも総合的プログラムの実施によって、一歩一歩放射線誘発性メカニズムの難解
な問
題が解明されることを期待している。
今回は放射線誘発リスクの横断的・縦断的研究(Cross-sectional・Longitudinal
study)
について、主要研究である1)悪性死亡癌のリスク、2)分割表のリスク比較法、3)白内
障と
脱
毛リスクとのしきい値および4)放射線誘発脳障害について発表する。