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基本群へのガロア作用に関するDeligne-伊原の予想


松本 眞(京都大学総合人間学部)


$ {\mathbb{Q}}$で有理数体を表し、 $ {\overline{{\mathbb{Q}}}}$で代数的数の体 (一変数有理数係数多項式の解となる数の全体)を表します。 $ {\overline{{\mathbb{Q}}}}$の体としての自己同型群を「 $ {\mathbb{Q}}$の絶対ガロア群」 といい、 $ G_{\mathbb{Q}}$で表します。

$ X$を、 $ {\mathbb{Q}}$上定義された幾何的連結な代数多様体 とします。これは、有理数係数の連立多変数多項式 を、複素数範囲で解いた解図形と考えて差し支えありません。

$ X$は位相空間なのでその基本群$ \pi_1(X)$が定まります。 Grothendieckの理論により、 $ G_{\mathbb{Q}}$は基本群の profinite completionと呼ばれる完備化に作用することが わかります。

この作用は多くの情報を持ち、しばしば$ X$そのものが この作用から回復されることが示されています (Grothendieckの遠アーベル哲学、証明は玉川 望月ら)。

一方Deligneは、「基本群のpro-$ \ell$完備化 $ \pi_1(X)^{(\ell)}$へのガロア 作用は、コホモロジー的なもの(=``motivic'')であろう」と 予想し、その予想からガロア作用について基本的な予想を 立てました。その予想は、伊原が独立に研究していた 枠組においては次のように述べられます。

伊原は、$ X$として $ X={\mathbb{P}}^1-\{0,1,\infty\}$をとり、 $ \pi_1(X)^{(\ell)}$の降中心列を引き戻して $ G_Q$にフィルトレーションを入れました。Deligneの予想を この枠組で述べると、 「このフィルトレーションに付随するgraded Lie代数 の生成元として、3以上の奇数次グレードに一個ずつの元が とれるであろう(生成)」と述べられます。 また、同時に発せられたDeligneの質問は、 「さらに、これらの生成元は自由生成元なのではないか」 というものです。

1999年に生成の予想を「重みつきマルセフ完備化」という 手法で証明したので、それについて説明します (R. Hainとの共同研究)。これは、ガロア群をベキ単行列群 で近似する手法で、証明は``motive''の哲学にそったものです。




Tohru Okuzono
2001-09-27