next up previous
Next: この文書について...

「2つの整数が互いに素である確率」をめぐって1

杉 田 洋 (九大数理)


整数 x,y の最大公約数を gcd(x,y) と書く.Dirichlet による次の密度定理 (1849)

 \begin{displaymath}
\lim_{N\to\infty}\frac 1{N^2}
\char93 \{1\leq x,y\leq N\,\vert\,\mbox{gcd}(x,y)=1\,\}
\,=\,\frac 6{\pi^2}
\end{displaymath} (1)

は,以下の直感的な説明が分かりやすい : gcd $(x,y)=1\, \Longleftrightarrow\,{}^\forall p:{\rm prime}, 「(p\vert x
\mbox{ かつ }p\vert y)$ でない」.そこで $B:=\{(x,y)\vert{\rm gcd}(x,y)=1\}$ は 次のような表示を持つ. $B=\cap_{p:{\rm prime}}({\bf Z}\times{\bf Z}-p{\bf Z}\times p{\bf Z})$$p{\bf Z}$ の確率 $P(p{\bf Z})$p-1 と考えるのが自然である.さて,p, q を 異なる素数とするとき, $p{\bf Z}\cap q{\bf Z}=(pq){\bf Z}$ であるから, $P(p{\bf Z}\cap q{\bf Z})=
P(p{\bf Z})P(q{\bf Z})$,すなわち事象たち $p{\bf Z}$$q{\bf Z}$ が独立であることを示して いる.それで,B の確率 P(B) は

\begin{displaymath}P(B)=\prod_{p:{\rm prime}}P({\bf Z}\times{\bf Z}-p{\bf Z}\tim...
...left(1-\frac 1{p^2}\right)
=\frac 1{\zeta(2)}=\frac 6{\pi^2}.
\end{displaymath}

以上の計算は正当化できる.${\bf Z}$ のコンパクト化として有限整adele環 $\widehat{\bf Z}$(p-進整数環 ${\bf Z}_p$ たちの無限直積)とその上の一様確率測度 $\lambda$ を考え る.

$\widehat{\bf Z}$ 上でも gcd を自然に拡張して定義することができる.それに伴って $\widehat B:=\{(x,y)\in\widehat{\bf Z}^2\vert{\rm gcd}(x,y)=1\}$ とするとき, $\lambda^2(\widehat B)=6/\pi^2$ および大数の法則の応用として(1)が示される.


次に中心極限定理のスケーリングを考える. $S_N(x,y):=N^{-2}\sum_{n,m=1}^N
{\bf 1}_B(x+m,y+n)$ とすれば各 $(x,y)\in{\bf Z}^2$ に対して

 
    $\displaystyle N\left(S_N(x,y)-\frac 6{\pi^2}\right)$  
    $\displaystyle =\,
-\sum_{u=1}^\infty\frac{\mu(u)}u
\left(\frac{(N+x)\bmod u}u-\...
...m_{u=1}^\infty\frac{\mu(u)}u
\left(\frac{(N+y)\bmod u}u-\frac{y\bmod u}u\right)$  
    $\displaystyle \quad
+\frac 1N
\sum_{u=1}^\infty \mu(u)
\left(\frac{(N+x)\bmod u}u-\frac{x\bmod u}u\right)
\left(\frac{(N+y)\bmod u}u-\frac{y\bmod u}u\right)$ (2)

が成り立つ.ただし,$\mu(u)$ は Mobius 関数である.

(2)の右辺を -T(x;N)-T(y;N)+R(x,y;N) と書く. 各項は自然に $\widehat{\bf Z}$ および $\widehat{\bf Z}^2$ 上に拡張される.このとき, $N\to\infty$ に対して $R(x,y;N)\to 0$ in $L^2(\widehat{\bf Z})$ であるが, $-T(\bullet;N)$ は普通の意味では極限を持たない.しかし, $N\to\infty$ の 解釈を $\widehat{\bf Z}$ の意味で置き換えれば意味のある極限が得られる. すなわち $\widehat{\bf Z}$ の位相で $N\to z\in\widehat{\bf Z}
$ とするとき, $-T(\bullet;N)\to{}^\exists-T(\bullet,z)$ in $L^2(\widehat{\bf Z})$ という収束が起こるのである.

もちろん,以上のことは(1)のような文脈で述べることもできる.そのとき,実際に 数値計算によって(2)の様々な極限分布(一般にそれらはGauss分布 からほど遠い)の姿を垣間見ることができる.



 

Tohru Okuzono 平成12年11月14日