根上生也(横浜国立大学教育人間科学部)
http://www.ngm.edhs.ynu.ac.jp/negami
グラフ理論は,点と線からなる素朴な図形(グラフ) の性質や構造を探求する 離散数学の一分野です. それに「位相幾何学的」が付くと, 組合せ論の範疇には納まりきれない研究が展開されていきます. その中心的なテーマは,グラフの曲面への埋め込みです. それに付随して生じる現象を解明するのが, 位相幾何学的グラフ理論だと思ってください.
例えば, 「四色定理」や「地図色分け定理」などが証明された1970年代には, 完全グラフが目的の閉曲面に埋め込めるかどうかが問題になっていました. しかし,その問題が決着して以後, グラフが「どのように埋め込まれているのか」という問題に 関心が移っています. 特に,近年,グラフ・マイナーの議論と関連して, ``representativity"という不変量とグラフの性質を絡めた研究が 盛んに行われています.
実は,その``representattivity"のルーツをたどると, 私の修士論文(1981)にまで遡ります. その議論は,グラフの埋め込みの一意性と忠実性, さらにはグラフの再埋蔵構造(異なる埋め込みが生成されるメカニズム) の研究へと発展し, 日本から発信している位相幾何学的グラフ理論の大きな流れの1つになっています.
また,射影平面上のグラフの再埋蔵構造と関連して, グラフの射影平面への埋め込みとその被覆 (トポロジーでいうところの被覆空間)の平面性が 密接に関係していることが明らかになってきました. そして, 1986年に「平面的な有限被覆を持つグラフは射影平面に埋め込み可能であろう」 という予想が提起されて以来, 海外の研究者も巻き込んだ新たな研究の流れが誕生しました. 当初,その予想は``1-2- conjecture"と呼ばれていましたが, 近年では,``Negami's planar cover conjecture"と呼ばれています.
その一方で, 閉曲面の三角形分割に関する研究の流れも動いています. 特に,対角変形という局所的な変形に関する同値性 の研究を主軸にして, 既約三角形分割,再埋蔵構造,``looseness"などの研究が発展し, それと並行して,閉曲面の四角形分割の対角変形の理論も 展開されています. 最近では,四角形分割の染色数が ``cycle parity"という代数的な不変量で制御できるという 驚くべき結果も得られています.
さらに,結び目理論と関連して, グラフの多項式不変量や,空間グラフのラムゼー定理といった 研究も行われてきました.
こうした研究は, いずれも日本独自のもので,他の追従を許さないほどに, 大きく発展しています. その発展の様子を知りたい方は, ``Topological graph theory from Japan"というサーベイをご覧ください. 私のホームページからそのPDFファイルをダウンロードすることができます.