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フックス微分方程式とパンルヴェ差分方程式について

渡辺文彦(九州大学大学院数理学研究科)

リーマン球面上に対数特異点を4点もつ Fuchs 型微分方程式

\begin{displaymath}\frac{d}{dx}Y=\Bigl(\frac{A_0}{x}+\frac{A_1}{x-1}
+\frac{A_2}{x-t}\Bigr)Y
\end{displaymath} (1)

を考える。ここで、t はパラメータ、 A0,1,2$2\times 2$ 行列で成分が xによらないもの、 Y は解行列である。ある一般的な状況のもとで、各行列 $A_{0,1,2,\infty}$ (ここで $A_{\infty}=-A_0-A_1-A_2$)の固有値は、 方程式 (1) のモノドロミー群の変数となるが、 これらの固有値が t によらないとき、 方程式 (1) は、モノドロミー群を不変に保ちつつ パラメータ t で変形されているという。 この数学的状況を方程式 (1) のモノドロミー保存変形という。 このとき、係数 A0,1,2t を独立変数とする次の常微分方程式系をみたすことが知られている。

\begin{displaymath}\frac{dA_0}{dt}=\frac{1}{t}(A_2A_0-A_0A_2);\
\frac{dA_1}{dt}=\frac{1}{1-t}(A_1A_2-A_2A_1);
\end{displaymath} (2)


\begin{displaymath}\frac{dA_2}{dt}=\frac{1}{t}(A_0A_2-A_2A_0)
+\frac{1}{1-t}(A_2A_1-A_1A_2).\end{displaymath}

この方程式系は、Schlesinger 系といわれる方程式系の特別な場合であり、 この方程式系 (2) はパンルヴェ第6微分方程式と同値である。 さて、 $x=0,1,t,\infty$ で確定特異点をもち、 各点で局所モノドロミーが与えられた、 リーマン球面上多価な $2\times 2$ 行列函数 Y(x) が、 リーマンヒルベルト問題の解として存在するが、 この解行列 Y(x) を対数微分することで Schlesinger 方程式 (2) の解、 ひいてはパンルヴェ第6微分方程式の解が得られる。 実際、[1] では、テータ函数を用いて Y(x) を実現し、これより特別 な場合のパンルヴェ第6の解を得た。

一方、[2] ではパンルヴェ第6のq差分版をつくりだすため、 方程式 (1) のモノドロミー保存変形の類似として、 線形q差分方程式の接続行列保存変形ということを考えた。 この接続行列はテータ函数を用いてかなり具体的に書くことができる。 この接続行列は一般には「非可換」なモノドロミーをもつが、 接続行列に入っているパラメータが特別な場合には、 これが通常のモノドロミー行列となり、 この場合の接続行列が [1] における Y(x) を与えることがわかる。


参考文献

[1] Kitaev and Korotkin, On solutions of the Schlesinger equations in terms of $\Theta$-functions, Internat. Math. Res. Not., 17 (1998), 877-905.

[2] Jimbo and Sakai, A q-analog of the sixth Painleve equation, Lett. Math. Phys., 38 (1996), 145-154.


 

Tohru Okuzono 平成11年10月18日