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微分幾何的にみた多面体の幾何

熊本大学・教育学部 伊藤 仁一

最初に,タイトルの多面体という言葉を 普通に piecewise flat な多様体という意味と 組合せ位相幾何で用いられる単体複体の構造を持っている 集合の意味との2通りの意味に混用していることをことわっておく.

ここでは,ユークリッド空間内の多面体に対して,Gauss 曲率に あたるものを定義し,微分幾何でよく知られているいくつかの定理や問題の 多面体における以下のようなアナロジーを考察したい.

(1) 多面体の Gauss の驚異の定理 (2) 多面体の Chern-Lashof 型定理
(3) 多面体の Gauss-Bonnet の型定理 (4) 多面体の Cohn-Vossen 型定理
(5) 空間グラフの最小全曲率と tight 性 (6) 多面体の Bonnesen 型不等式
(7) 3点を結ぶ最小全曲率のグラフ (8) 与えた境界の最小全曲率の多面体
(9) 多面体の最小跡の構造

簡単のために, $ {\bf R}^{3} $ 内の組み合わせ多様体で, 各2単体は平面上の3角形であり, 各頂点のまわりでは,局所的に埋め込みとなっているものに限って, ここで考える曲率を紹介する. また,各頂点で,そのまわりの面の法ベクトル(片側)たちが,半球面に 含まれるとき, 多面体が,性質(*)をみたすということにする.

頂点 v の intrinsic な曲率 Ki(v) は, まわりの面 fjv での角を $\theta_{i}$ とするとき,

\begin{displaymath}K^{i}(v):= 2 \pi - \sum_{j=1}^{k} \theta_{j} \end{displaymath}

と定義する. extrinsic な曲率 Ke は 以下のように定義する. 頂点 v のまわりの面 fj の単位法ベクトルを $ \vec{ n}_{j} $とし, これを単位球面 S2 上の要素とみなす. S2 $ \vec{ n}_{j} $ から $ \vec{n}_{j+1} $ への向き付けられた測地線を cj,j+1 と書き, 向き付けられた閉折れ測地線 c $c:= c_{1,2} \cup c_{2,3} \cup \dots c_{k,1}$と置く. $ \vec{n} (\in S^{2} \setminus c \mbox{の対称点集合})$を基点とする c の符号付き面積を, $K^{e}(v, \vec{n})$と定義する. ここで,符号付き面積とは, $ \vec{n}, \; \vec{n}_{j},\; \vec{n}_{j+1} $を向き付けられた測地線で結んだ測地三角形の領域を T(j) とし, J+ (resp. J-) を $\{1,\cdots, n\}$ の部分集合とし, $j \in J^+ (resp. J^-)$ なときは, T(j) の向きが反時計回り (resp. 時計 回り) のときとする. 符号付き面積とは,

\begin{displaymath}K^{e}(v, \vec{n}) := \sum_{j\in J^+} Area(T(j)) - \sum_{j \in J^-}
Area(T(j))\end{displaymath}

とする. 性質(*)をみたすときは,$\vec{n}$の取り方によらず, 一定の値となるので,Ke(v) と書くことにする. 更に,単位球面上を T(j) によって分割し,各領域 D(i) ごとに T(j) に 何回覆われたかを符号付きでの和 mi を考え,各面積の mi の 絶対値倍の和 Ka(v) を以下のように定義し,その全ての頂点での和を絶対全曲率とみ なす.

\begin{displaymath}K^a(v) := \sum_{i} \vert m_i\vert Area(D(i)). \end{displaymath}



 

Tohru Okuzono 平成11年11月8日